八回目
結局、セオは昼休みになっても帰ってこなかった。
「なあ、今日A定食ハンバーグだって! いいなあ〜、いやでも待てよ、B定食のチキン南蛮も捨てがたい……いやしかしカツ丼が俺を呼んでいるっ! ああっ、どれにしたらいいんだろおおお」
券売機の前で頭を抱えて真剣に賢吾が悩んでいるのを遠くから見守りながら、徴矢は食堂をキョロキョロと見回した。洒落た食堂には自分と同じ服装の人間なら沢山いるが、どこにも珍妙な格好をした悪魔は見当たらない。
煩いくらいの人の声の中で、徴矢はただ小さく溜息を零した。
(ったく……どこに行ったんだよ、セオの奴……)
こちらの都合も知っているくせに、何も無視や注意だけで消えなくてもいいだろうに。
どうも子供のようで扱いにくいと思いつつも、目は自然と半透明の物を探してしまう。誰かに見つかったらという懸念もあるのだが、徴矢にとってセオが消えることはイコール不幸回避策がなくなるということだ。心配よりも不安の方が勝っての行動だった。
けれど幾ら見渡しても、半透明で宙に浮く姿など無く。
「……仕方ねぇなあ……」
「ん? どったのスミ」
券売機から顔を離して小首を傾げる賢吾に、徴矢はごめんと軽く謝った。
「ちょっと俺用事思い出したから、すまんが先に食べててくれ」
「オッケー。早くな!」
こういう時にツーカーな友達はありがたいと思いながら、徴矢は踵を返す。あれから何回か場所を移動したから、もしかしたら迷っているのかもしれない。
まさか徴矢の匂いを辿って追ってもこれないだろうし、そうすると最初の講義室に行って見るのがいいだろうか。そんなことを考えながらも、足取りは自然と速くなっていく。
少し息が上がりながら朝に講義を受けた場所へ戻ってみるが、セオの姿は無い。
その後移動した所を一々見て回ったが、結局半透明の奇妙な物体は見当たらなかった。
「一体どこに行っちまったんだ……」
まさか大学から出てはいないと思うが、と半ば祈りのように思いつつ、徴矢は人気の無さそうな所を捜して見ることにした。勘ではあるが、人の多い場所を探すよりかは早くていい。
トイレなども探しながら、徴矢はとりあえず図書室のほうへと向かった。
セオはあれだけの漫画を一晩で読みつくしたくらいだから、少なからずとも本が好きなはずだ。退屈だったら本を読んでいるかもしれない。というか、読んで大人しくしていて欲しい。
「しかし……何で俺、あいつを探し回ってんだろうな……」
このシチュエーションなら、エロゲでは絶対に自分に惚れているであろう美少女を探すイベントのはずなのに。現実は悲惨な物だ。
只今攻略中のゲームの事を思い出しながら、徴矢は情けない顔で図書室の扉を開けた。
昼休みということもあってか人が意外に多かったが、やはりセオの姿は無い。結構広い場所なので隠れ易いと思ったのだが違ったようだ。
静かに扉を閉めて、ふと徴矢は隣にある図書準備室に目が行った。
ここは確か、滅多に誰も入らない。けれどもある程度の本が置いてあるはずだ。もしかするとセオはここで本を読んでいるかもしれない。
(……ま、そんなうまいこと見つかったら苦労はねえけどな……)
はははと乾いた笑いを漏らして、期待もせずに徴矢はドアを開けた。
と。
「あ……徴矢」
セオは、そんな徴矢の無い期待すら裏切って、机の上に行儀悪く座って本を読み散らかしていた。
「なんでお前はこう微妙な登場を……」
召喚のときといい今といい、外しすぎだ。
思わず気が抜けて肩を落とす徴矢に、セオは顔を明るくして近づいて来る。
「もしかして、探してくれたの?」
嬉しそうな声に無意識に反論しようとして、徴矢は相手の姿にギョッとした。そういえば半透明じゃない。きちんと色もついて、向こうの世界が見えない。実体だ。
慌てて開きっぱなしにしていた扉を閉めて、徴矢はセオを手で押し退けた。
「あのなっ! 人がいないからって簡単に術を解くなよ、誰が見てるかわかんねーんだぞ!?」
しかも隣の部屋には人がいる図書室が在るのに、と小声で怒れば、セオはすぐに不機嫌そうな顔に変わる。
「誰もいない場所なのに、僕はまた姿を隠して延々と黙ってなきゃいけないのかい?」
「そ……それは……」
困惑の表情を浮かべる徴矢に、セオはどこか怒ったような声を吐く。
「僕、今日のことで気付いたんだけど、無視されるの嫌なんだよね。仕事だ趣味だって突き放されて、折角こんなに近い所にいるのに話もできないし見つめ合いも出来ないなんて、我慢できない」
徐々に近づいて来るセオに気圧されて、徴矢の背中はドアに押し付けられる。これ以上逃げる事の出来ない不安と、湧き上がって来る嫌な予感に対する焦りで手は汗で湿っていた。
それらを振り払って、理不尽な相手の言葉に反抗する。
「だっ、だからって俺に何の比がある。バレたら困るし、俺には色々とやるべき事がある。学校についてくるって事は、お前だってそれを予想してのことだろ。なのに、勝手に拗ねて怒ってどっか行って人に迷惑をかける奴にあれこれ言われる筋合いは無い」
徴矢の言い分に、セオは美しい皓緑の目を細める。
「なら僕だって仕事してるじゃないか。僕の仕事はラルヴァを消すことだ、その為には徴矢と一緒にいなければならないし、君だって僕がいなければ駄目なはずでしょ? なのに僕をないがしろにして好きな話ばっかりして、僕を無視した。僕はただ、遊びで徴矢と一緒にいるんじゃないんだよ?」
「う……」
それを言われると、何もいえない。
確かに今はいつも通りの日常ではない。セオも理不尽に呼び出されて、自分と一緒に標的を捜さなければならないのだ。セオが仕事中だというのは間違っていないし、セオの言う事も自分のことに置き換えてみれば納得できた。
しかし、直接的な被害を被るのは自分だし、好き勝手に行動しても何のデメリットも無いセオのことを考えると、どうしても自分に非があるとは思いたくなかった。
相手は標的を消すだけで帰れる。けれど自分はこんな非日常の中でも、日常通りに過ごして、何のボロも出さずに理解不能な敵と戦わねばならないのだ。天秤に掛けたなら、きっとこちらのほうが何倍も苦労している。なのに責められるなんて、どう考えてもおかしいだろう。
徴矢は段々といらつきを増してくる思考を抑えながら、再び小声で言い返した。
「だが、被害を被るのも、その比率が多いのも俺だ。お前にはこの世界にいたって何の損害もないじゃないか! ちったぁ俺の生活のことを考えろよ!」
今出せるギリギリの怒鳴り声で相手を叱るが、セオは不機嫌な顔のまま動じない。
「僕だって、損害はあるよ」
言いながら、セオは顔を近づけてきた。
ドアに掌を向けていた徴矢の腕は簡単に捕らえられ、足の間に相手の足が割り込む。残った手で慌てて引き剥がそうとしたが、セオはびくともしない。
やばい、と反射的にそう思ったが、それを考えるのは大分遅すぎた。
「何すっ」
るんだ、と続けようとしたが、セオが徴矢の耳に口を寄せたのを見て勝手に言葉が途切れる。
「さっきからお腹がすいて、死にそうだ。アレだけじゃ足りない、もっと欲しい。餓死しそうだ。ねえ、餓死なんて、徴矢の生活で出てくる言葉かな? 僕は、この世界に来てからずっと……この言葉に追いかけられてるんだよ。ねえ、徴矢」
背筋を弱くなでるような、何ともいえないゾワゾワとした感覚。妙に頭に残る低めの優しい声に徴矢の喉は緊張で引き攣った。これからされることが解っているからか、足は震えている。
「徴矢、僕、お腹がすいてるんだ…………。そんなに徴矢が言うのなら、僕だって僕の事を考えて勝手にしてもいいよね? ねえ」
呼びかけてくる息が、熱い。耳の奥にいつまでも残ってむず痒さを伴った温度を伝えてくる。
何かを呼び覚ますような感覚に目を細めて耐え、徴矢は震える喉で必死にセオを止めようとした。
「ま、てよ、ここ大学だぞっ……?! 隣の部屋には人がっ……」
そう、ここは神聖なる学び舎、不埒千万な行いなど許されない。もっと言うと公衆の場所なのだ。いつ誰がここに来るか解らないし、もし誰かが用事でここを開けてしまったら――――学園生活どころか人生の終わりだ。もう生きては行けない。
何とか相手を止めようと目を向けて見るが、セオはどこか冷たい目で徴矢を見つめ、言うことを聴こうという姿勢は示さなかった。
「か、帰ったら、帰ったらやるから……だから、ここでだけはっ……」
形振り構わずの懇願に、セオは暫し動きを止めていたが……。
ニヤリと、笑った。
「仕事や趣味で夢中になってたら、無視してもいいんだよね?」
まさに……悪魔だ。
「ちょ、ちょっとまて悪かった、俺が悪かったから、今度からはお前をないがしろにしないから……っ」
譲歩するが、もう遅い。
徴矢自身もそう解っていたが、最早誰の目から見てももうセオは止められなかった。力では到底敵わない相手なのに、何故自分は怒らせてしまったのだろうか。徴矢はそんな後悔を今更しつつ、自分の顔のすぐ傍にあるセオの顔を見やった。
あれだけニコニコと笑っていたはずの顔が、今は全く笑っていない。ただ冷たくて、無表情だ。
勝手に寄る眉根を戻す事も出来ず、徴矢は奥歯をかみ締めた。
「じゃあ、僕は食事しても、いいよね?」
一度だけ徴矢の正面に顔を戻して、セオはにっこりといつもの笑顔で笑う。
「…………わかったよ……ああ、もう嫌だ……」
結局自分はどうしてもここで抜かなければ行けないわけか。
セオの満面の笑みに崩れた笑みを返しながら、徴矢はがっくりと肩を落とした。
こんなのエロゲの中だけで充分なイベントだ。どうせなら、自分ではなくて二次元美少女がこうされるのを見ていたかった。カラーで妄想する気力すら薄れつつある徴矢を後目に、セオは満足そうに口を歪めると、もう一度先ほどの体勢に戻る。
「じゃあそのまま立っててね」
「……え?」
何か、今衝撃的な事を言われた気がするのだが。
思考停止する徴矢を他所に、セオはそのまま耳を舌で軽く舐めた。
「ひっ……!」
再び襲ってきた肌を粟立たせる奇妙な感覚に、徴矢の肩が引き攣る。セオはそれに気を良くして目を弧に歪めると、そのまま耳を唇で食んだ。
「い、あ、ちょっ……やめろって、ひっ……お、おねが、止めてくれっ……!」
耳を激しく揉みしだいてしまいたくなる様な、虫が這う感覚に似た痺れ。小さな器官を攻められているだけだというのに、全身がそのむず痒さに小刻みに体を震わせていた。
「徴矢って、耳弱いんだね」
嬉しそうな熱い吐息が、耳の奥まで擽る。
「喋るなっ、ボケ……っ!」
涙を堪えたような情けない声が出る喉が、ひくりと動く。思わず相手の肩を押し退けてしまうが、相変わらず少しも動きはしなかった。
それどころか、罵倒が嬉しかったのかセオはそのまま舌を耳の穴に挿入し始める。
くぢゅり、と形容し難い音が詰まったかのように耳に押し付けられて、一層背筋に怖気が走る。けれども何故か、勝手に体の熱は上昇して行った。
「ひ、ぁ、だかっ……やめっ、て……!」
びくびくと耳の中で舌が動く度に体を振るわせる徴矢。セオはそんな徴矢の反応を楽しみながら、そっと制服を脱がしていく。けれども徴矢は音と刺激に耐えることに精一杯で、シャツのボタンを外され肌を曝け出されている事にも気づかなかった。
ようやく、耳を犯した舌が退く。
「結構色んな所が敏感なんだね、徴矢って。もうココだって立っちゃってるし」
まだ耳の中の音に囚われ言葉を返すことも出来ない徴矢を笑いながら、セオはボタンの外された制服とシャツを開いた。薄暗い場所に似合う、日焼けもしていない不健康な肌が露わになる。
外気に晒されたというのに、色素の薄い乳首は色付いて立ち上がっていた。
「さっきからちょっとずつだけど、美味しい味がするんだ。……やっぱり徴矢は素質があるよ。きっとこれから、僕が触れるだけで感じるようになる……」
とんでもない事を言うセオに、徴矢は荒い息に溺れながらも思った。
(そうなったら死のう。今から東尋坊貯金だ)
だが強ちそれも「もしも」の話ではなくなるかもしれない。ぞっとしない未来を想像して顔を歪めながら、徴矢は自分の上半身を曝け出したセオの顔を見やった。
先程とは打って変わって嬉しそうな相手の顔に、何故か幾分か心が休まる。
胸を荒い息で動かしながら、徴矢は己の変化に不可解だと眉根を寄せた。
「ねえ徴矢、もうこれ、気持ちいいでしょ?」
そんな徴矢を知らずに、セオは片方の乳首をぐりっと押し潰した。
反射的に痛いと思って抗議の為に口が開くが、どうしたことか喉は息を情けなく引き込むだけで、怒りの声すら出せなかった。何故だと驚く徴矢に、セオは笑ってそのまま指で捏ね繰り回す。
「いっ、ぁ……だか、ら、そんな所をいじく、っても……」
「でも昨日も今も、気持ちいいって徴矢は思ってるよね?」
言いながら、セオは楽しそうに指の腹同士でぐりぐりと挟み引っ張る。
痛いと思わなければ行けないはずなのに、口は勝手に切羽詰ったような声を出して、頭はぼやけてしまう。何も言い返せない。
セオは熱く荒い息を吐く徴矢をこの上なく楽しそうに見つめると、そのまま弄っていなかった方の乳首へと口を寄せた。徴矢が驚く暇も無く、それを口に含んで舌で転がす。
「っ、っふ、んぅ……! っく、か、噛むなって……っ」
「甘噛みなのに? 痛くないはずなのに、どうして徴矢は噛まれると嫌なのかな」
「そ、れは……っ」
「嘘ついたって駄目だよ。僕にはちゃんと伝わってるんだからさ……」
言葉に詰まってぐっと息を飲み込む徴矢に、セオはお仕置きとでも言うように更に激しく口腔で徴矢の乳首を攻め立てた。
「ひっ、っあ……っ!」
いきなりの衝撃を受けたような感覚に、足が力を無くしてガクリと曲がる。
しかしセオは倒れこむ事を許さないとでも言うように、徴矢の股の間に入れた足で徴矢を無理に支えた。既に張り詰めそうになっていた股間にセオの太腿が押し付けられて、徴矢は仰け反った。
「っぁああ!」
思わず大きな声が出てしまい、そろりと目だけでセオを見おろすと、相手はいやらしげな笑みを浮かべて、わざとだとはっきり解るようなねちっこい言葉を徴矢にかける。
「気持ちよくないんだよね? あれ? だったらおかしいよね……」
徴矢の体を弄くるのをやめると、セオは強く徴矢の肩を掴みしっかりと立たせた。今度は徴矢を見おろす格好になったセオが、唇の重なるギリギリまで顔を近づけて、囁く。
「なんで、大きな声を出して……ここをこんなに大きくしてるのかな」
肩を掴んでいた手が、ぐっと股間を掴む。セオの言葉とその刺激に耐え切れず、徴矢は顔で熱を爆発させた。こんな事で簡単に勃ってしまうなんて、かなりの失態だ。その上あんな大きな声を出してしまっては、誰かに聞かれたかもしれない。
早鐘を打つ心臓に惑わされながら、徴矢は背中越しの扉の外を気にして顔を背けた。だが、セオはそれを反抗だと受け取ったのか、半眼になりつつ口だけを笑ませて、握りこんだ場所を指で器用に擦って揉んだ。
「っ!?」
口が大きな声を出しそうになって手で押さえる。
震える下半身を一瞥してまた顔を徴矢の顔に戻すと、セオは軽く徴矢の唇を啄ばんだ。汗ばんだ頬に美しい黄橙色の髪がかかって、暫し張り付く。自分がそれだけ汗を掻いていることに驚きながらも、離れていくセオの顔を見送った。
なされるがままの徴矢に、セオは満足げに笑む。
「声、出しちゃ駄目なんだよね?」
「あたりまえ……」
最後の一文字を言う前に、一番弱い部分を激しく擦られて徴矢は目を見開いた。
「う、あっ……!」
「ホラ、またそんな大きな声出して……今度は聴かれちゃったかも」
「お、前が、いたらんことを……っ!」
鼻声になりながら必死に非難するが、セオはどこ吹く風という様子で楽しそうに徴矢を見つめる。
「そこまで強がれるなら大丈夫だよね?」
「なっ……」
そう言って、セオは徴矢の視界から消えた。
一瞬何が起こったのか解らず周囲を見回したが、ジッパーの降りる音に慌てて下を向く。
「お、お前……!」
信じられないものを見るような徴矢の目には、今まさに下着ごと自分のズボンを降ろそうとしているセオが映っていた。いや、まあ流れからしてそうなることは予想できたのだが、しかしココは学校で、しかも自分は制服だ。午後の講義だって残っている。
まさかここで発射なんてしてしまえば証拠も残るし危ないし、兎に角危険だ。
徴矢は青ざめて今度ばかりは必死で懇願した。
「お、お願いだから今は止めよう、やめようぜ、な!? 帰ったらお前が好きなだけメシ喰って良いし邪魔もしないし構うから、お願いだからここでは止めよう! 俺は白ジャムぶちまけ事件なんて起こしたくないんだ、頼むから! な、セオ!」
しかしセオはそんな徴矢のズボンと下着を引き摺り下ろし、悪魔の笑顔でニヤリと笑う。
「確かに帰ってから好きなだけっていうのは魅力的だけど……快楽って慣れてないと、持続的に美味しい状態保てないんだよね……。まあ、要するに徴矢は精液が残るのが嫌なんでしょう?」
それもあるが、これ以上何かされると正気でいられる気がしないからだ。
この際、その正気じゃない状態というのは言わないでおく。
「そういうのもあるが……と、兎に角頼むから……」
「なら大丈夫!」
にっこりとイイ人スマイルを徴矢に披露しながら、セオは徴矢の足をグッと広げる。
行動とセリフと表情があってない。なんだお前のその器用ぶりは。異星人か。心の中で冷静にそう突っ込みを入れてみるが、最早徴矢にはそれらを口に出す余裕さえなかった。
誰かが来てしまうかも知れない場所で、自分の部屋でもない場所で、自分はこんな変態な格好で男相手に大股を開かされてあられもない格好をしている。
しかも、情け無い事に勃起までさせて。
羞恥に更に熱が上がるが、やはり体は同時に危険な疼きを蓄積させていった。セオはそれを見抜いているのか、細かに震える徴矢の自身を緩く握り、ふっと息をかける。
「んぁっ……!」
「そんなに残したくないなら……僕が飲んであげるからさ」
「…………え?」
一瞬頭を空っぽにさせてからの衝撃発言という高度テクニック。これはまさに匠の技。
意味不明な言葉を過ぎらせて、徴矢はようやくセオの言ったことを理解し目を飛び出させんばかりに驚いた。多分漫画なら飛び出ている。
「ちょちょちょちょちょちょっと待て待て待ってくださいお願いだからそれだけはイヤだって!」
「遠慮しないでいいよ。全く、徴矢は恥しがりやさんだなあ」
遠慮してないし、これは恥しいんじゃなくて引いているだけだ。
幾ら自分がエロオタでも、男に含んで貰っても何も嬉しくない。そりゃ「精液のんじゃった」なんて二次元美少女に苦しげな顔で微笑まれたら嬉しかろうが、相手は男だ、悪魔だ、三次元だ。
自分がいくらシチュエーションに流され易いとしても、絶対に無理だった。
いっそこれで萎えてくれと自分の相棒にお願いしてみるが、嫌なことにこんな時に限っていう事を聞かない。口元を引きつらせる徴矢を楽しそうに見つめながら、セオはそのまま見せ付けるように口を開いた。赤い口内が見えて、ゆっくりと顔が自分の下腹部に近づいて来る。
下腹に感じる熱い息を感じて身震いし、徴矢は半ば涙声で懇願し続けた。
「た、頼むから、何でもしてやるから……っ」
「徴矢だって、このままだったら辛いでしょ? 安心してよ、死ぬほど快楽を感じさせてあげるから……その方が僕にとっても嬉しいし」
ああ、この悪魔は何もわかっちゃいない。
魂が抜けていくような感覚を覚えながら、徴矢は押さえられて閉じない足をひくりと動かした。
「やっぱ学校に連れてくるんじゃなかった……」
「徴矢。そんなに喋ってると、大きな声でちゃうよ」
冷静なその言葉にはっとセオを見返すと、相手はもう大きく口を開けてすぐそこにいた。
思わず息を呑んだと同時、ゆっくりと口が濡れ始めた自身を飲み込む。
(っあ……なに、これ……っ)
快感神経がまとまったような自身を、ぬめる暖かい壁が包み込む。まるで纏わり付くような、奇妙で真新しい感覚に思わず体が反応した。セオはそれを見逃さず、吸い付きながら舌でいやらしく自身を舐め回していく。時折吸われる感覚に、堪らず徴矢は扉に背を押し付けて喉を仰け反らせた。
「うあぁっ、あ、あ、っひ、っぅ……! な、に、これっ……や、だ、やっぱ、嫌だ、嫌、だって……セオ……セオぉ……!」
自分でも意識せずに出てしまう切なげな声に、相手は笑う。しかしその息が根元や下腹部に触れて更にどうしようもない感覚は募っていった。
最早自力では立っていられず、ガクガクと大きく揺らぐ足を見て、セオは口を離した。唾液かそれとも別の物か判別できない透明な糸が伝う。
「そんなに大きな声出していいの? 聞こえちゃって困るのは、徴矢だよ」
嬉しそうな声に腹が立つが、だが反論できない。
内股になって崩れかける足を支えて貰っていることしか意識できず、徴矢は悔しくて両手で口を押さえた。憤死してしまいそうなほどだが、しかし、今自分に出来る事はこれぐらいしか無い。
セオはそんな徴矢に満足げに口を弧に歪めると、また徴矢の自身を口に含んだ。
「ひっ……!」
思わず声を上げそうになって、手に力が入る。
相手はちらりと上目遣いで耐える徴矢を見て、行為をエスカレートさせた。
水音を立てながら、これ見よがしに吸い付き、くびれのあたりや鈴口をぐりぐりと舌でしつこく責め立てて来る。先ほどのことでももう我慢できないほどだったのに、続けざまに酷くそうされて徴矢は掌を噛んで必死に耐えた。そうしないと、どうしても声が抑えられなかったのだ。
「んっ、ぐ、っぅうう……! っん、んぅう、っく……っ……!」
ここで耐えなければ、この醜態が知られてしまう。
こんなに足を開き女でもなければ人でもない男を迎え入れて、その上フェラをさせて喘いでいるなんて、普通の光景じゃない。絶対に、あってはならない光景なのだ。
なのに、自分は出さなくてもいい声を上げて、それを必死に堪えて、頭を真っ白にしてしまうような心地良さに溺れそうになっている。こんなに、非常識な事をしているのに。
(俺……俺、本当にどうしちまってるんだよ……!)
涙で歪む視界に目を細めながら己を叱咤してみるが、熱も快感も消える事は無い。それ所か自分がそういう事をしているのだと認識し直すたびに、体の震えと熱は酷くなっていく。
掌を噛んで耐えていた歯さえ、与えられる刺激に力をなくしていった。
「もう耐え切れないかな?」
言葉になっていない声でそういわれて、息と音の振動に自身が反応する。
「ひぁあっ! しゃべん、な……頼む、からぁ……っ!」
「やっぱ限界かなあ。じゃあ、勿体無いけど……」
言いつつ、セオは自身に軽く歯を立てて舌と口腔を使って刺激しながら、自身を吸った。
「っあぁあ、っ、ふ、あっ……んぅううっ、っ、――――――っ!」
最後の叫びそうになる声が、何故か聞こえない。
だが徴矢にはもうそんな事が気にできるような余裕などなく、セオの頭にしがみ付いてただその感覚に身を委ねるしかなかった。
後書的なもの
受けは恥しがればいいと思います。
でも正直徴矢もセオも互いにいい性格してるとおもいます。
2009/03/24...