五回目








  
 「では、規定執行ということで。いいよね?」
 男はそう言いながら、優しげなアメリカンスマイルを前面に押し出す。胡散臭いと思ってしまうのは気のせいではないだろう。先程の微笑を見せられては、最早笑顔さえ信じられなかった。
 しかし男は徴矢の気持ちなど知らぬように、そのままで話を続ける。
「じゃあ、まずは互いに名前を名乗ろうよ。いつまでも『君』じゃ、親近感が湧かないしね」
「湧きたくねぇよ……」
 ぼそりと呟いてみるが、相手はちっとも堪えていない。というか寧ろ聞いていない。
 ルンルン気分とでも言いたげな雰囲気を存分に纏いながら、男は己を指さした。
「僕から先に言うね。僕の名前はセオ。ヴォーソのセオだよ」
 その名乗り方に些か違和感を覚えて、徴矢は眉を寄せた。
「ヴォーソが苗字なのか? それとも名前?」
「名前はセオだよ。ヴォーソは種族名。苗字は凄く長いから普段は言わないんだ。聞きたい?」
 嬉しそうに聞いてくる相手に首を振って、徴矢は拒否を示す。苗字が長いキャラクターというのは多々いるが、徴矢はその苗字をどれも完璧に覚えたことはなかった。興味が無いものには全く記憶力が機能しないのだ。多分相手の苗字を聞いたとしても、自分は覚えきれないだろう。
 残念そうに首を傾げる男……セオから目を逸らしながら、徴矢は溜息を吐いた。
 とりあえず、【君】呼ばわりはうざいので名前くらいは名乗っておこう。
「俺は愛宕徴矢だ。名前は徴矢の方な」
「あ、そっか、日本人だもんね。そうか、すみや……すみやか! どういう字で書くんだい?」
 興味津々でそう訊かれて、徴矢は辺りを見回した。そうして己の名前の書いて有るノートを見つけて手を伸ばす。
「これで『あたご』。この二つで『すみや』って読む。解るか?」
「なるほど……。日本人って難しい文字を使うんだね。僕これ読めないよ」
「そりゃあ漢字だし……って、中国も漢字じゃないか?」
「そう言えばそうだね。でも僕中国行ったことないからよく解らないよ」
 言いながらフランクに笑うセオに少しばかり口が引き攣る。そこはかとない人間臭さが有る気がするのは気のせいだろうか。普通、悪魔というのは何でも知ってる教えてやるなんていう存在だったと思うのだが、自分が記憶違いをしているのか。
 暫し悪魔の性格について悩む徴矢を置いておいて、セオはどこかから鉛筆を取り出すとノートにサラサラと何かを書き始めた。そうしてまた笑顔で書いた物をコチラへ見せる。
「僕はこう書くよ。覚えてね!」
 教育番組のお兄さんかよと頭の中で突っ込みながら、徴矢はその字を見やった。
「V、O……ってこれローマ字じゃん。【ヴォーソ・セオ】?」
「凄い! 読めるんだね、徴矢は頭がいいなあ!」
 思い切りバカにしたような言葉だが、相手の表情を見て至って本気だと思い知る。
 この男は何か、頭の螺子でも抜けているのだろうか。今時ローマ字の読めない人間なんているはずが無いと思うのだが。
「あのな、多分日本人全員読めると思うぞ」
「え……そうなのかい? あれ……数百年で文化って随分変わるんだねえ。僕がこの前人間界に召喚された時は、日本はまだ江戸だったんだけど……今何時代? 超江戸時代?」
「平成だよバカヤロー」
 悪意は無いと解っているのにバカにされている気分になるのは何故だろうか。徴矢は冷たくそう答えると、ノートを閉じてそこらへんに放った。
 何だかもう、深く考えるのが馬鹿らしくなってきた。こんな悪魔だったら、騙されたとしてもすぐに解りそうだ。のほほんと笑顔で名前の話なんかしているんだから、自分を殺すなんてしないだろう。こういうキャラ付けされている輩はそうそう強行には及ばないはずだ。
 徴矢は大きな溜息を吐くと、ずりずりと座ったままでベッドを移動して降りようとした。
「何をしてるの?」
「決まってんだろ。始末して服を着るんだよ。じゃなきゃ外にも出られんだろうが」
「待って」
 言いながら、セオがまた肩を掴む。
 何だと怪訝な顔で相手を睨めば、相手はまったく怯えた様子を見せないナイススマイルでぽろっと爆弾発言を吐き出してくれた。いや、くれやがった。
「出かける前にもう一度、食事させてくれないかい?」
 幾ら紳士的に言われても、いっくら優しく言われても、意味は変わらない。
 ようするにセオはまた「一発抜け」と言っているのである。実も蓋もない言い方だが、これしか言いようが無い。変態も休み休みにして欲しい。本気で変態を休んで欲しい。そう思いながら顔を引き攣らせる徴矢に、セオは以前紳士的な笑みを浮かべながら両肩をガッと掴んだ。
「おま、ちょ……っ」
「いやー、僕ほら、食事が“快感”でしょ? だから正直あれくらいのちゃっち……いや、少ない快感じゃお腹一杯にならなくてさ……」
「ちゃっちいって何だちゃっちいって!」
「まあ兎に角、気力満タンじゃないとこれから探すラルヴァには敵わないしさ……だから、食事をさせてほしい。本当にごめん、いや、僕もこれは本意じゃないんだけどさ」
 言いながら、セオは器用に徴矢を押し倒してベッドの中心へとずらしていく。完全に素人の技ではない。これはプロの手口である。徴矢はその事態に足をバタバタと動かして抵抗しながら、セオに怒鳴りつけた。
「謝りながら俺をベッドに拘束してんじゃねぇ!!」
「いやあ本当にごめん、ごめんね徴矢」
 と言いながら、セオは本当に嬉しそうな顔で徴矢に乗りかかる。
「誠意が感じられねぇえええ!!」
 せめて嘘でも良いからしょぼくれた顔をしろと叫ぶ徴矢に、セオは眉だけ情けなく顰めて見せるとそのまま笑った顔を保った。それはしょぼくれた顔ではない。更に嬉しそうな顔になっている。
 一瞬男の大事な部分を蹴り上げてやろうかと思ったが、股の間にいられてはそれも叶わない。先程から一生懸命に腕に力を込め相手の腕から逃れようとしてみるが、全く成果がない。それほどセオの力は強かった。所謂悪魔超人というヤツだろうか。
 それでは人間が敵うはずがないと混乱した頭で変に納得しながら、徴矢はとにかく頑張った。何を頑張ったかと聞かれるのも野暮なくらい頑張った。
 が、まあ、その頑張りは報われる事なく、無駄な抵抗と名が付けられて鎮圧されてしまう。
 簡単に両手を捕われ、頭の上でセオの片手に固定されて、徴矢は絶望感を味わった。同じ男なのにこうも腕力が違うのはどういうことだろうか。相手が悪魔だとはわかっているが、こうも差が付き過ぎだと悔し泣きしたくなる。
「さあ、徴矢……これからもっと快楽が得られるようにしてあげるから……ね?」
「いらねぇええええ」
 殺される心配は無いにしても、これはこれで充分拷問である。
 同じ男にまたあんあん言わされあちこち触られるのかと思うと、本気で萎えた。何が萎えたなんて言いようが無いほど体中の萎えられる機関全てが萎えた。所謂全萎えである。
 最早勃つことすらままならないと思いつつ、徴矢は諦めたように腕の力を緩めた。
「これからは、もっともっと快楽を感じられる体にしてあげるから……そしたら徴矢も楽しめるよね? だから今は我慢して……」
「っておい、チョット待て! それってもしかしてコレからもそういう事を続けるって言ってるのか!?」
 徴矢のその言葉に、セオはまたニッコリと笑う。
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕は“快楽”が最高の糧だから、ラルヴァと戦うためには沢山快楽を貰わなきゃ行けないよって」
「一言も聞いてネェよ、っていうかお前そんなコト言ってなかっただろ!」
「あ、ごめん。言い忘れてた!」
 語尾に☆マークでも付きそうなほどポップでキュートに謝るセオに、怒りの炎がメラメラと燃え出す。何がポップでキュートだ。これは明らかに「言い忘れていた」んじゃない、「あえて言わなかった」のだ。つまり元より徴矢をどうこうしたくて、でも警戒されるのが怖いからあえてそれを言わなかったのだ。んなこと知ってたら、多分自分はセオになど手を貸さず甘んじて二倍の不幸を受け入れていただろう。男の魔の手より様々な困難の方が何倍もマシだ。
 やはり悪魔の言う事など信用するんじゃなかったと涙目の徴矢に、セオは初めて笑顔を解いて困惑した表情を表した。
(え…………)
 思わず、怒りと悔しさが凍る。
「えっと……その……徴矢、本当にごめん。でも、僕は人間からこうして糧を貰わないと、人間世界で生きて行けないんだ。 騙したように思えて感じが悪いかもしれないけど、でも、我慢して欲しい。仕事が終わるまで、どうか僕に糧を与えて欲しい……君のためにも」
「…………セオ……」
 笑顔か悪魔の顔か二つの表情しか無いと思っていた相手の思わぬ表情に、心が揺れ動く。
 セオが快楽を欲しがるのは、言ってみれば自分達が飯を欲しがるのと一緒のことだ。もしかしたら、セオは結構腹を空かせているのかもしれない。だからこそ、こんなにがっつくのだろうか。
 だとしたら、何だか拒むのも申し訳ない。自分だって性欲食欲には忠実だ。欲しいものを欲しいといいたい。欲しければさっさと買いに行ったり行動を起こしたりする。けれど、セオはそうしてすぐに空腹を満たす事は出来ないのだ。「快楽」とは、簡単に得られるものではないから。
(そう考えると……こいつ、ちょっと可哀相なのかも…………)
 実際、性欲よりも食欲が満足しないほうが何倍も辛い。食欲は三大欲求の中でも特に大事な部分なのだ。そんな大事な部分が満たされないのは、凄く苦しいに違いない。
 もしや、セオは今まさにそんな状態なのだろうか。
(だったら、なんか俺が悪者みてーじゃん)
 徴矢は今、折角満足にありつける食事を取り上げようとしているのだ。
 そんな事を自分がされたら、我慢できるだろうか。
 いや、できるはずがない。
「…………解ったよ。…………でもあれ以上変な事したら承知しねぇぞ」
 これも人(?)助けだ。いや、自分助けだ。セオが本調子ではないと仕事が上手く行かないというのなら、多少嫌な思いをしても助けねばならない。どうせこんな事も長くは続かないのだ。終わりがあるならば、耐える事もできるだろう。
 大きな溜息を吐いてじろりとセオを見やる徴矢の言葉に、セオは一気に花でも咲かせたかのような嬉しそうな顔を披露した。後ろにバラが漂ってるように見えるのは多分目の錯覚だろう。
「徴、矢…………嬉しいよっ! ありがとう、本当にありがとう!」
 いきなり肩口に飛びついてきたセオに驚きながらも、徴矢は何となく悪い気はしなくて口を尖らせた。美形だと何をしても悪い顔をされにくいと言うのは本当のようだ。
 出来れば触れてくれるのだけは勘弁したいが、と思いながら肩口から上がってくる顔をちらりとみて、徴矢は何回目か解らない驚きに顔を染めた。
「じゃあお礼に…………もっと、気持ちよくなれるようにしてあげるね……?」
 ふふっと笑いながら至近距離で悪魔の微笑をかます相手に、また顔が青く染まる。
「おっ、おま……また騙しやがったなコンチクショー!?」
「騙してないよ、僕は徴矢の気持ち良さそうな顔と快楽が欲しいだけさ」
「語尾を楽しそうにするんじゃねええええ」
 ガチガチと歯を鳴らしながら威嚇するがもう遅い。悪魔を信じてしまった己のお人好しな思考を恨みながら、徴矢はセオを睨みつけた。けれど怯む事は無く、セオは嫣然と笑んだままで再び肩口に顔を埋める。びくりと反応する徴矢に構わず、そのまま唇を首筋に押し当てた。
「っ……!」
 生温く湿った感覚に眉が寄る。少しばかり痛みを覚え、目は自然と細くなった。くちゃ、という唾液の音が堪らなくて、腕に片耳を押し付ける。だがそれでは音を防ぐ事はできなくて、徴矢は目をぐっと閉じて早くその音が止むようにと願った。
 少し抓られる感覚にも似たそれが、じりじりと体を苛む。湿った感触が背筋をゾクゾクさせる。何より相手の熱い息が首筋に掛かると、何故か心臓はどくどくと激しく脈打った。
(しっ、静まれ、静まれ俺の心! 相手は男だぞ、俺はノーマルなんだぞっ!)
 しかし、「誰かに体を弄ばれている」という事実が、異様に昂奮を盛り上げていく。
 そういうシチュエーションは好みだと思っていたが、自分がやられて喜ぶだなんて思いたくない。何度も主張するが、自分は真っ当で健全なエロを嗜む日本男児なのだ。擦られれば勃つとも、こんな事をされて喜ぶなんて言語道断である。何かもう色々と失格だ。
 だがそう思う度、顔の熱さも体の火照りも心拍数も増していく。自分が変だと自覚する度に体はどんどん正常ではなくなっていった。
 これではまるで、自分が変態ですと主張しているようではないか。
(ち、違う、断じて違うぞ俺! これはいわゆるシチュ萌えというヤツで、俺はきっとこの行為自体に興奮して……って自分がやられてんなら結局変態趣味ってことでOKじゃねぇか!! 勝手に昂奮すんなバ体! 俺はノーマルだって言ってんだろ頼みます昂奮しないで俺の体……)
 もうなんか泣きたくなってきた。
 何が悲しゅうて、男に首筋吸われて昂奮しなければいけないのだろうか。
 これこそが男の本能かと責任転嫁しそうになる徴矢に、セオはその苦悩に畳み掛けるように次の攻撃を開始した。
 首筋をちろちろと這っていた舌が、下へ下へと徐々に移動していく。
 ついに胸元に滑った感触が到達して、徴矢は半ば無意識的に声を上げた。
「ひっ、や……キモ、い……! バカっ、どこまで舌を……」
 熱い顔で講義をすると、セオはニコニコと笑いながら可愛らしく首を傾げる。
 いや、可愛くないから。
「どこって……ここだけど?」
 言いながら、セオは立ち上がりかけていた乳首を、ぐりっと舌で押し潰した。
「んぅっ!? ちょ、バカ野郎、男の乳首はただの飾りだ! 触っても無駄だっ!」
「そうかなぁ? 僕はそうは思わないけど……」
「こらっ、おい、嫌だったら! 触んなって……っ!」
 じたばたと腕を動かして抵抗しようとするが、片腕だけで纏めているセオの力には全く敵わない。全力を出していても、セオの片腕は揺らぎもしなかった。完全に腕を封じられている。
 それでも暴れる徴矢を楽しそうな目で見ながら、セオはわざと徴矢の顔を凝視し立ち上がりかけたそれをもう一度舌で押しやった。そのおかしな感覚に、体が顕著にびくつく。人に触れられた事も無くそういう行為を受けた事もない突起は、舌の感覚を敏感に感じ取っていた。
「大丈夫だよ。もうすぐ嫌じゃなくなるから。……それどころか、もっとして欲しくなるよ」
 怪しげなその言葉と瞳に、またぞわりと背筋を何かが走る。
 セオはいつの間にかぴんと立ち上がった乳首を嬉しそうに見やると、また見せ付けるように今度は口をそれに持って行く。いつの間にか顔を真っ赤にして黙ってそれを見つめていた徴矢は、すぐに感じた生暖かい感覚に体を奮わせた。
 それと同時に、触れてもいないのに勝手に立っていたもう片方にセオの空いていた手が伸びる。
 唇に挟まれた感触と、指で擦られた感覚に、徴矢は眉根を寄せて目を細めた。
(なにっ、これ……やだって、マジ気持ち悪いんだって……!)
 そう思うが、声に出ない。頬はもう自分でも解るほどに赤くなっていて、気付けば口は情けなく口惜しそうに曲げられていた。今の自分の顔は、まるで……。
(ち、違うぞ、決して俺は感じてもいないし、悔しい顔をしてもいない!)
 しかし徴矢の必死の否定は、セオの舌と指によって無き物にされていく。
 指は強弱をつけ押し潰したり引っ張ったりし、時に捏ねて来る。口の中に収められたもう一方は、舌にぐりぐりと蹂躙され、赤子のように吸い付かれた。
 それが嫌というほど感覚で伝わってきて、泣きそうになる。嘗め回され、指に強く押し付けられる感覚に息が上がっていく。気づけば口からは子供が泣く前のような小さな喘ぎが漏れていた。
 そんな馬鹿な。そう思ってもどうすることも出来なくて、徴矢は漏れそうになる声を必死に飲み込んだ。けれど、セオはそれを解っているようで、徴矢を見てにやりと笑う。
「っん……っく……だか、ら……嫌、だって……」
 熱くなる目頭を制そうと目を細めてみるが、視界が潤んでいくのは止められない。
 セオはそんな徴矢を追い詰めるように行為を更にエスカレートさせた。
「いあっ、痛い……て……! ぅ……や、め……」
 指が強く乳首を引っ張り、舌がわざと痛みを感じさせるように吸い付いてくる。
 徴矢は体を何度も波打たせながら、自由にならない拳を握り締めた。痛い、殴りつけたいほど痛いが、それでも何故か熱は冷めない。それ所か酷く扱われ、その後に弱く触れられるたびにどんどん心拍数が上がっていく。脳まで沸騰しそうで、訳が解らなくなっていく。
 何故自分はこんな事をされて、こんな風になっているんだろう。何故自分は、男に触られてこんなに熱を上げているんだろう。解らなくて、悔しさを覚えるたびにまた熱が上がっていく。
 息は絶え絶えで、触れられるたびに食い縛った歯の隙間から切羽詰った声が漏れる。
 最悪だ。だがそう思うたびにどうしようもない疼きが増していった。
 一体、自分はどうしてしまったのだろうか。
 目尻にうっすらと涙の溜まった徴矢を見て、セオはようやく口を離した。
「まだ完全には拾えてないみたいだけど……これは期待できそうだ。やっぱり、君は最高だよ」
 言いながらその艶めいた唇を徴矢の耳元へと寄せ、息をかけながら囁く。
「なにせ、魔法もなしに……ここまで快楽を追ってるんだからね……君は」
 その言葉に、奈落の底に落とされた気分になる。嘘だと言おうとしたが、口を開いたそばから嗚咽が込み上げそうになって、犬のようにハッハッとしか呼吸できなくなる。言葉なんて出そうに無かった。悔しくて、恥しくて、最初の行為よりも何倍も屈辱的で泣きたくなる。
 けれどセオはそれが好ましいとでも言うようにまた嫣然と微笑むと、徴矢のわななく唇に軽いキスを施した。そうして、また少し昂奮の色を滲ませた声を落とす。
「泣きそうな顔、凄く可愛いよ……。約定がなかったら、今すぐにでも全て奪いつくしてしまいたい…………本当に最高だよ、徴矢」
「っ、く……へんた…………ぜって、許さ…………」
「泣かないで。一緒に快楽を味わおうよ。……さあ」
 言いながら、セオはまた顔を下へずらしていく。徴矢はそれを情けない顔でビクリと震えながら見つめ、最早力も入らなくなった腕をぱたりと動かした。
「こ、の……クソ、あく……っぁっ!!」
 唐突に片手で自身を握られて、思わず声が上擦る。
 だがセオは構わず、そのままもう一度乳首を口に含み徴矢の自身を擦り上げた。そうして、両方を執拗に攻め立てる。それを徴矢が我慢できるはずもなく。
「んっあ、っぅう……や、だ……やめ、って、ぇ……し、ねっ……ばかぁ……!」
 最早我慢できずにぽろぽろと涙を零しながら、それでも徴矢は必死に口で抵抗し続けた。だがその抵抗が意味を成さず、相手を燃え上がらせることなど知っていて。しかしそれでも男の最後の自尊心は守りたくて、徴矢は泣き出しそうな子供のような顔で必死に口を噤んだ。
 セオはそんないじらしい徴矢の抵抗を嘲笑うかのように、強く吸い上げ嘗め回し、指をバラバラにして巧みに動かしながら徴矢を追い詰めた。
「いあぁ、あ、や、め……! も、もぉ、おねが……やめ……っうぅ……!」
 必死に懇願するが、セオは慈悲の欠片も無い顔で笑いながら薄っすらと紅潮した顔で手を早めた。
 限界に来た徴矢を更に追い詰め、徹底的に自尊心を壊そうとしている。だがそう考え快楽を押し込めようとする度にやはりそれは大きな波となって戻ってきて、もうどうにもならなかった。
 切迫して、苦しくて、今自分を苦しめているはずのセオに向かって懇願の目を向ける。解放して欲しいと涙を流す徴矢に、セオは解ったと言わんばかりに止めを刺した。
「ちがっ、止め……っあ、っぅううぅ……!!」
 強く吸い上げられ、擦られて、呼吸が一瞬とまる。
 今度こそ目の前が真っ白になって、徴矢はベッドに深く沈みこんだ。





 
 
   





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後書的なもの
 
どうでも良いですが徴矢が「てつや」に見えてきました。
  助けて下さい。

2008/07/31...       

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