番外編1










  
  
 
 
「あの……やめて……」
「何を言う、栄養を摂らなきゃ一生退院できねえぞー」
「い、いや、だから、そ、それは……」
「ほーれ口を開けろ!」
「ぎゃああぁあがぼぶっごほっ、ごごおおお」
 小雨の降りしきる夏先の午後、病院の一室から恐ろしい悲鳴が聞こえていた。
 しかしその叫びを聞いて看護婦が現れるわけでもなく、しとしとと窓の外から聞こえる雨音に張り合うように男は悲鳴を上げているしかなかった。
 そんな彼を見て、悲鳴を上げさせた男、こと徴矢は暗い笑みをにやりと浮かべている。
 黒い妄想をしている危ない人間のような表情といったら言い過ぎだが、男にはそう見えただろう。それどころか、悪魔か鬼にさえ見えたはずだ。
 なぜなら……。
「み、みどぅ、い゙ゔ――――! だ、だおうかあー! い゙ゔ――――――!!」
 のた打ち回る男の口の周りには、粉が散乱している。
 まるで薬のようにきめ細かい黄土色の粉が、喋るたびにぼふぼふと舞い上がった。
 まるで砂塵の中の砂嵐だ。
 男の口から舞い上がる煙を見て、徴矢は笑みを深くした。
「いやー、美味いだろ? 美味いだろ? 俺の実家から送ってきたわらび餅! 科学的な味しねーんだよなあこれが! まだいっぱいあるから、遠慮しないで沢山食えよ〜」
「ごほっ、あ゙っ、あ゙ぉっ……ぉえがい゙じあずかあ……みゔ……」
 あからさまかに明るいスマイルに顔を切り替えて、男に笑いかける徴矢。
 そんな自分の恋人を見て、宙に浮かんでいた半透明の悪魔は少々顔を引き攣らせた。
「き、鬼畜だ……」
 飲み物が無いわらび餅、それ即ち大自然のお仕置きだ。
 しかもそれをまだ満足に動けずに横たわっている人間に食べさせるなんて、人間のやることでは無い。
 正真正銘の悪魔にさえそう言わせてしまう徴矢の所業は、まさに鬼畜、外道の技であった。
「え? 水? しょうがねーなー。 じゃあ今度から人の悪口はいうなよー」
 にこにこと教育番組のお兄さん並みに微笑んで、徴矢は男に水を与えた。
 頭を手で支えて、殊更優しく丁寧に水を男に与えてやる。まるで親が子供にしてやっているような行為に悪魔、ことセオが指をくわえて見ているのを横目に、徴矢は男が落ち着くまでコップをゆっくりと傾けて水を口に流し込んだ。嚥下の音が聞こえ、ようやく男の口から一息漏れる。それを確認してから徴矢はコップを放して寝かせてやった。
「さ、サドだろお前……」
 ドスの利いた声が弱々しく言うが、徴矢は変わらず明るい笑みで首をかしげる。
「んなワケあるかよ。サドだったら一分以上お前を苦しめてるぞ、俺は」
「笑えねぇ冗談いわないでください」
 徴矢の言葉を本気だと受け取ったのか、男は青ざめて首を振る。
 冗談だよ、と安心させて、徴矢は口の周りに撒き散らされたきなこを拭き取ってやった。
 優しいと思われるだろうが、実際は証拠隠滅のためである。
 しかし男も優しいと思ったのか、少々顔を赤らめながらそっぽを向いて口を尖らせた。
「ばっ、ババアみてーなことしてんじゃねえよ」
「へえ、お前の母さんってこんなことするんだ」
「ゔ……」
 恥しい事実を自ら暴露してしまった事に男は一層顔を赤くしたが、それ以上何も言えずただ顔をそむける。すこしだけ「こいつもちょっと可愛いな」と思っていると、背後から重苦しい声が漏れ出た。
「徴矢どいて……そいつ呪い殺せない……」
「やめろ、お前はどこかの都市伝説か」
「は?」
「いや、独り言」
 セオの思わぬ発言につい口が滑ってしまった徴矢だったが、焦りを隠して冷静に振舞った。
 どうせバレはしないだろうが、この男の前で迂闊に計画外の事をしてしまうのは頂けない。
 振り返って「もう喋るな」とセオを睨み付け、徴矢は男に振り返り笑ってやった。
 
 ――――数週間前に「不良共は自分がカタをつけると宣言してから、徴矢は週三でこうして男の病室へと見舞いに来ていた。
 最初は義務的なものだったのだが、今は進んでこの不良のリーダーを見舞っている。
 勿論、情が移ったからでも、好意を持ったからでもない。
 この男が一々自分のしたことに面白いぐらいに引っかかり、バカ丸出しで怒り、甘い顔をすればすぐに懐柔されてしまうと言う漫画のような面白い性格をしていたからだ。
 未だに黒髪をいじめた事は許せないが、これも自分のした事を認識させて更生させるため。
 とは言いつつ、他人をいじることが楽しくて仕方の無い徴矢であった。
 
「さーって、ほら、今日の分のやっちまうぞ」
「げ……あんなことしといて更に拷問かよ……」
 カバンから課題を取り出す徴矢に男は嫌そうに顔をゆがめるが、徴矢は対照的に爽やかな笑顔で優しく諭すように告げる。
「仕方ねえだろ? 怪我してても進むもんは進むんだ。おまえのためだよ」
 言うと、男は口をもごもごと動かして、控え目に舌を打つ。だがその顔が嫌がっているものでは無い事に徴矢は気付いていた。
 最初は本当に嫌そうだったが、見舞いに来る回数を重ねるうちに男も懐柔されてきたのかあまり嫌そうな顔をしなくなったのだ。洗脳は順調に進んでいるらしい。
 暫し課題を教えてやりながら男にちょっかいを出そうとするセオを牽制していると、男が不意に徴矢に問いかけてきた。どうやら問題の解き方などを訊こうというのでは無いらしい。
 どうした、と片眉を上げる徴矢に、男は少し恥ずかしそうに訊く。
「そ、そのよ……今週のアレは……」
「ああ、快天樂か? 心配すんなって。お前がきちんと課題終わらせたら貸してやっから」
「マジかっ! うおっしゃ!!」
 快天樂、というのは直球で説明するとエロ漫画雑誌のことである。しかも二次元の。
 長いこと刊行されているこの雑誌には魔子ちゃんが載っており、徴矢の愛読書の一つでもある。
 男も最初は漫画かよ、と首を絞めたくなるような悪態をついていたが、禁欲を強いられる病室での陥落など容易い事。ついに男は二次に手を出し、侵食されていった。
 今ではもう無意識に二次元を求めている。
 このまえ普通のエロ本を持って行ったのだが、男は次の本は快天樂がいいと言ってきた。これはもうカタギには戻れないほど病状が進んでいる証拠だ。
(ククク……これでお前も俺らを批判できまい!!)
 同じ年齢だから解るが、欲望は時として好みでは無いものででも達してしまう。
 何度も与えられ続ければ、男はそれを気に入るようになってしまうのだ。
 俗に言う、美人は三日で飽きるがブスは三日で慣れるというものか。
 兎も角、男はもう二次元からは逃れられない。
 必死で課題を終わらせようとする相手を見ながら、徴矢は一層ほくそ笑んだ。
(他の奴らは大人しくなったし、こいつがこっち側にくれば、もう大学には怖いものなんかない。……いや、周囲の視線は怖いが……まあそれは置いといて、これで黒髪もようやく枕を高くして寝られるんだ!)
「あ、そういやさ、お前どうすんの?」
「え?」
 不意に話しかけられて間抜けな声を返すと、男も間抜けな顔で続けた。
「黒髪、別の大学に行くんだろ? 見送りとかいくのか?」
「…………え?」
 何気ない男の一言に、徴矢はただ固まる事しか出来なかった。
 
 
 
 
「げッ……あいつ喋っちまったのか……」
「ひーらーかーわーぁ……お前知ってたんだなぁー……?」
 話の詳細を聴いてすぐに平川の病室へと駆け込み、恨み言のようにそう言うと、平川はまずいと言わんばかりに顔を歪めて手で口を抑えた。
 今更そんなことをしても無駄だ。もうこっちは知ってしまったのだから。
 どういうことだと詰め寄れば、観念したのか相手は居心地悪そうに体をもぞもぞと動かした。
「その……お前には口止めされてたんだよ、黒髪本人から」
「は!? な、何で!?」
 思わず身を乗り出して相手の顔の間近に迫ると、平川もようやく隠しきれないと判断したのか、大きな溜息をついて首を振った。
「……一週間くらい前かな。なんか突然見舞いに来てさ、開口一番に『俺引越しする事になった』って言ったんだよ。オレもビックリしたんだけど、更に黒髪ったら『でも徴矢には言わないで』なんて言うんだぜ? なんか、なんつーかポカーンってなってさぁ……理由とかは教えてくれなかったけど、すげー深刻っぽかったぜ?」
「……そう、か」
「あの……お前ら、喧嘩でもしたのか?」
 心配そうに平川が聞いてくるが、首を横に振るくらいしか返事が出来ない。
 自分でも驚くほどショックを受けているようで、口から言葉が出てこなかった。
 黒髪が自分にそんな大事な事を隠していたなんて、信じられない。
 親友だと言う思いは揺らがない。今の話を聞いても徴矢はまだ、黒髪を親友だと思っていた。
 けれど、気持ちが沈んできて浮き上がらない。
 怒りも悲しみも湧かず、徴矢の心にはただ衝撃としか言い様の無い感情しか残らなかった。
 黙りこむ徴矢を見て、平川は「そっか。」と一言呟いて間を置くと、空気を変えるように手を叩き、殊更明るい声で徴矢を元気付けるように笑いかけてきた。
「いや、あのさ……多分、お前にだけは言いたくなかったんだよ」
「え?」
 予想していなかった言葉に目を瞬かせると、平川は笑顔を苦笑に歪めた。
「お前は黒髪にとって大事な奴だからさ……その……いえなかったんだと思う。……オレ、お前よかは黒髪のこと知ってるから解るんだ。……あいつさ、大事な奴にはそういうのを言い出せない奴なんだ」
「平川……」
 慰めてくれているだけだとしても、その言葉は救われる。
「サンキュ」
「おう」
 今はそんな軽い礼しか出来ず、徴矢は自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。
 
 
 
 
 
 平川の病室を出た後、どうすべきか迷ったが、徴矢は賢吾の病室へ行くことにした。
 とんだ病室めぐりだが、今の徴矢には相談できる相手が賢吾しかいなかったのだ。なんだかスタンプラリーをしている気分になったが、その考えを面白く掘り進む気にもなれず、溜息ばかりをつき徴矢は無遠慮に賢吾の病室のドアを開けた。
「うおっまぶしっ……じゃなかった、びっくりしたぁ……スミかあ」
 ベッドに寝転んで腕やら足やらを吊られて包帯だらけだが、賢吾はそれでもいつも通りに徴矢を迎えてくれる。面会謝絶の状態が解除されてまだ数週間だと言うのに、凄い回復力だ。
 そんな相手に何故だか心が安らいで、徴矢は人心地を取り戻すとベッドの脇の椅子に座った。
「調子はどうだ」
「つまんない。魔子ちゃんないし、スミもいないし、なんかもう牢獄にいる感じがする」
「そ……」
「あれ、どったの? 何かスミの方がおげんこないじゃん」
 オカマ口調にはまっているのか、賢吾は微妙な口調でおどけながらも心配そうにこちらを覗きこんでくる。賢吾だけはいつもと変わらないな、と思うと不思議と心が安らぐ気がして、徴矢は一度大きく溜息をついた。
「いや……ちょっと相談があってな」
「え゙ー、俺んとこってそういうのしかないの? もっとこー、お土産とか、お土産とか、お土産とか、俺を気遣うようなお土産とかないわけ?」
 どんだけお土産がほしいんだお前は。
「うるせー最初の二週間は毎日来てやっただろうが感謝しろ」
「えっ、もしかしてそれ“私を食べて”パターン? ええー。俺ホモリカルパレードはちょっと……。ギリギリポールマキくらいの範囲なら許せるけど……」
「お前は何の、いつの時代の話をしてるんだ。っていうか舞浜のネズミに謝れ。相談聞くのが嫌なら帰るぞ」
 徴矢がさっさと席を立てば、賢吾は慌てて徴矢のズボンを引っ張って謝った。
 こちらのズボンがずり下がるのも気にせず、奇妙な格好で賢吾は頭をこくこくと下げる。
「ごめんごめん! 聞く聴く聴きますダンボフォームで聴くから許して!」
「……あのなー……深刻な話なんだからな。言っとくけど」
 とは言えども、やっぱり賢吾のいつもの態度が嬉しくて、徴矢は知らずに苦笑していた。
 少し落ち着いたので、事の顛末をゆっくりと賢吾に解るように説明する。
 賢吾も最初は目を瞬かせて聞いていたが、平川などに詰め寄った事や平川との会話を聞いているうちに妙な顔になり、遂には知恵熱でも出しそうなくらい顔を真っ赤にしてゆがめていた。
「あの……賢吾?」
「う……うーん…………でもなー、うーん、でもこれは……うゔー………………っああぁー! もう我慢できない! やっぱり俺には徴矢に隠し事するなんて無理だっ! ごめん黒髪っっ」
「は!? まっ、まさかお前も聞いてたのか!?」
 うがーと野獣の雄叫びのように声を上げて両手を天に突き上げた賢吾は、徴矢の素っ頓狂な声に我に返ると必死にコクコクと頷いた。
「一昨日あたりにさ、いきなり黒髪が尋ねてきたんだよ。記念すべきお見舞い一回目! ほら、あのコトがあったから、黒髪も来にくいんだろうなーって思ってたから俺も何も言わなかったんだけどさ。あ、もう怒ってないし、黒髪にも何もしてないからな。……そんで、俺も悪かったなーって思う所があったから謝ろうと思ったんだけどさ……黒髪ったらずっと俺に謝って、隙すら与えてくれないの」
「え……ちょっと待て、黒髪が謝った!?」
「なっ……記憶は消したはずなのに!?」
 徴矢とセオの声が同時に出るが、賢吾には当然徴矢の声しか聞こえず、少々驚きながらも小さく頷いた。
「うん……なんか、怪我させたのは俺のせいだとか、嫉妬してたとか……。よく解んないけどさ、黒髪のせいじゃないし、そうだったとしても俺は恨まないし謝んなくていいぜって言ったら……黒髪、泣いてた。……俺相当黒髪に心配かけたのかな?」
「いや、そうじゃない……」
 そうじゃない。黒髪は本当に賢吾を傷つけて、嫉妬していた。悪霊の手によって心を支配されて知らずに操られていたのだ。けれど、それを賢吾に言えるはずが無い。
 賢吾なら、それでも黒髪を許してくれるだろう。
 けれど、こういう事には巻き込みたくなかったし、何より黒髪と賢吾をそれ以上疎遠にしたくなかった。
 賢吾と黒髪には、互いをただの大好きな友達だと思えるままでいて欲しかったのだ。
 だが、黒髪は、記憶を取り戻してしまった。
 どういうことだと不安に染まった目をセオにやれば、セオも解らないといった様子で首を振る。術をかけた本人にも解らないなら、徴矢に解るはずもない。
「もしかしたら、自分で思い出そうとしたのかも……。僕はあの時かなり弱っていたから、術が不完全で完全に封印し切れなかったのかもしれない…………ごめん、徴矢」
(セオのせいじゃない)
 言葉を伝えるように真っ直ぐに相手を見、小さく首を横に振った。
 例えそれが真実でも、セオはあの時精一杯やってくれた。黒髪が記憶を思い出したのだって、黒髪自身の意思でのことかもしれないのだ。セオを責める気にはなれない。
「スミ、どったの」
「ああ……いや。話を続けてくれ」
 賢吾は少し不思議そうに首を傾げたが、構わずまた口を開いた。
「あ、うん。それでな、黒髪がちょっと落ち着いてきたから、また今まで通りに話して、ふつーの黒髪に戻ってきたかなーって思った時に、黒髪がいきなり引っ越す事を言い出してきてさ。俺びっくりして理由聞いたんだけど、なんか父親の都合とか何とかって言ってて……。で、俺スミにも話したのって言ったんだ。そしたら話してない、お願いだからスミには言わないでって」
「理由は聞いたのか?」
「ううん、しつこく訊いたんだけど、黒髪また泣きそうになりながら必死で頼んできてさ……。それ以上訊けなかったよ。よくわかんないけど、意地悪したいとかそう言う雰囲気じゃなかったぜ?」
「そうか……」
 賢吾にも話せないとなると、黒髪の中では相当重い理由なのか。それとも、徴矢にだけは言えない何らかの理由があるのか。しかしその理由が思い浮かばない。
 もし黒髪が記憶を思い出したのだとすれば、徴矢との事は全て解決しているはずだ。
 第一、今日も普通に話しかけてきたのだ。徴矢に何か後ろめたい事や近づきたくない理由があったのなら、黒髪は普通を装うより大学に来ない事を選ぶだろう。少しの付き合いしかしていないが、黒髪がそうする性格だろうと言うのは解る。
 じゃあ、どうしてこんな大事な事を自分に言わなかったのか。
「…………」
 訳が解らなくて、思わず自分の膝を見つめて拳を握る。
 賢吾はそんな徴矢を心配そうに見ていたが、やがていつになく真剣な表情になると、口を開いた。
「スミ、あのさ……よく解んないけど、悩むなよ」
「……え?」
 思っても見ない言葉に顔を上げると、賢吾は真っ直ぐな瞳で徴矢に告げた。
「俺には、お前らの状態が良く解んないけど、これだけは解る。悩んでるのは徴矢らしくないよ。いつでも俺らに殿様商売で俺様思考一直線が徴矢だろ? それでいつも俺ら上手く行ってたじゃん。だから、悩むなよ。悩む前に、どーんと行っちゃえって!」
「賢吾……」
「思いっきり、徴矢が思うようにやれよ。絶対上手く行くだろっ!?」
 基本ルーチンは破られない! と親指を立ててウィンクする賢吾に、声交じりの苦笑が湧き出る。
 ルーチンが同じだろうと、結果は違うかもしれないだろ。というか、なんだその訳の解らない決め台詞は。全く意味が解らない。
 だが、賢吾の言葉は徴矢に形容し難い種の自信を与えていた。
 まだ口を歪めている徴矢の肩に、そっとセオの手が触れる。そうして、セオは耳元で優しく囁いた。
「そうだよ、徴矢。あの時だって、徴矢は悩むより行動してた方が上手くいったじゃないか。今度も大丈夫。いや、今度こそ大丈夫だよ。……今度は、僕がいるから」
「おまえら……」
「えっ、ら!? すっ、スミ何ッ、もしかしてこの病室には何かいるのっ!?」
 うっかり言ってしまった言葉に慌てて口を押さえたが、賢吾は何かいるのだと思ったようで、しきりに周囲を見回していた。ああ、やっぱり賢吾は賢吾だ。
 嘘だ、と言おうとしたが、何だか意地悪がしたくなって、徴矢は嫌な笑顔を作ると顔を暗くした。
「なに、お前見えなかったの……? ほら、いるじゃないかお前のベッドに下にぃい」
「いやぁああああ怪奇オノ男ぉお!? やめてっやめてせめてツンデレメリーさんにしてええええ」
 この期に及んでまだ萌えか。
 堪えきれず、徴矢は今日始めて大爆笑したのだった。

 
 


 




    

   






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2010/08/28...       

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