二回目










  
 
 思わず手も思考も停止してしまった二人だったが、それが相手に解るはずもなく。ピートと名の付いたキャラクターはもう一度変な日本語でこちらに話しかけてきた。
『つかえるではない item、よろしいならばください』
 相変わらず無表情で棒立ちのまま、ピートは変な言葉を打ち込んでくる。
「かゆうまってか、エキサイト翻訳みたいだな……本家よりエキサイトしすぎだろ……」
「っていうかなんでアイテムだけ英語なの?」
 まだアイテムの事が気になっているのかセオは首を傾げるが、首を傾げる所が間違っていると思う。まあ、徴矢も突っ込めるような身分では無いが。
「にしてもこんな時間にクレクレかよ……ヒマなのか死にまくりで金が惜しいのか……」
「徴矢、これどうしたらいい?」
 困り顔でこちらを見上げるセオに、徴矢は少し考えたが仕方ないと眉を顰めた。
「代われ。こういうのは別エリア行ってもついて来るしな。ちょっと話して真性っぽいなら落ちる」
「今日は終るってこと?」
「そうそう。明日またやらせてやっから、今日はここまでな」
「うん、解った」
 やけに素直なセオに違和感を感じたものの、徴矢は気にせずに席に着いた。
 相変わらずピートは同じ言葉を繰り返しており、一向に帰る気配は無い。手を組み合わせてぽきりと鳴らし、徴矢はキーボードに手を置いて返信を開始した。
『アイテムがほしいんですか?』
 数秒で打たれた言葉が、エンターキーによって画面上にフキダシとして出てくる。
 フィールド全体の人間に呼びかける時にはこうしてフキダシが出てきて漫画のようになるのだが、相手は指定した相手のチャット欄にしか発言が残らない種類の会話方法を取っているのか、フキダシは出ていなかった。もしかすると、これはバカな初心者を装った巧妙な罠かもしれない。
(でもローマ字ならまだしも、なんでエキサイト翻訳……?)
 ローマ字で「konnitiwa」と打つよりも余程手間が掛かると思うのだが。
 肝心な所だけ抜けてる詐欺師なんているのだろうか。
 暫く相手の反応を待っていると、相手は近寄ってきた。
『はい,アイテム、がほしいです。おかねすこしだけあります。』
『どんなアイテムが欲しいんですか?』
『ぶきがほしいです。おかねぜんぶはらうので,よわいのでもくださいませんか』
「なんかやけに丁寧っていうか……漢字は?」
 横から覗き込むセオが指摘するように、相手はレベルの高い自分に何かをくれと言っているのに、何故か言葉はそれほど毛羽立っているようには思えなかった。
 どちらかというと、日本語が不自由で例文しか学んでいないような雰囲気だ。
「……外国人、なのか?」
 そういえば、こちらが「アイテム」と打って来た途端に、相手は英語表記ではなくてカタカナに変換し直している。何より、読点が時々カンマに変わっているのが一番特徴的だ。返答もこちらよりだいぶん遅いし、漢字がとても少なかった。これらの事柄も、相手が外国人だからと結論付ければ納得出来る。
 日本のネットゲームは外国人もよく参加していると言うが、まさか本当なのだろうか。
「試してみるか……。よっし、ゆーあーあめりかん? っと」
「徴矢、発音がだらしないよ」
 隣で指摘が飛ぶが、無視をして徴矢は英語で一旦話しかけて見ることにした。
 相手が何を母国語としているかは解らないが、英語は一応殆どの国で通じるだろう。少なくとも、ネトゲをやれるような国なら絶対に理解して貰えるはずだ。
 すると、今度は急に早い返答が帰ってきた。
『I am German. can you speak English ?』
「……まじかよ、ゲルマン? って……ドイツだよな?」
「うん。……っていうか、これ日本だけで繋がってるゲームじゃないんだ……すごいね!」
 いや、確かにすごいが、それより先に驚くべき所が別にあるのでは。
 色々突っ込みたかったが、返信が遅れるのも変だろうと徴矢は手を動かした。自慢じゃないが、英語は本当に話せない。簡単な会話だけでも「掘った芋いじんなー」で限界だ。
 きゃんゆーすぴーくとか問われても、答え方はあ、りとる一択しかない。
 頼むからこれ以上英語で話してくれるなよと思っていると、相手はこちらの思いを理解してくれたのかまた日本語で話しかけてくれた。
『えいご,ぼくもかくのはとくいではないです。 Germanは、はなせないですよね?』
『はなせません。ごめんなさい』
 こちらも思わず平仮名で返すと、相手は頷く代わりにぴょんと一回ジャンプした。
 基本的動作の一つだが、多分彼はここまでしかキャラの動かし方が解らないのだろう。
『だいじょうぶです。はなしきいてくださっただけで、うれしいです』
「……なんか、苦労したのかな。このピートって人」
 珍しく他人に同情的なセオに、徴矢も項垂れるように頷く。
「うん……まあ、十中八九話しかけた途端、相手にログアウトされまくっただろうな……これじゃ」
 正直、あんなにエキサイトした言葉で近寄ってこられても、気味が悪いだけである。
 しかも道端で「アイテムをくれ」だなんて言われれば、初心者は兎も角何日もネットゲームをやっている人間ならば面倒な相手だと無視して逃げてしまうだろう。
 俗にクレクレと呼ばれるアイテムをせがむ人間は、一度関わったら何度もストーカーしてお零れを貰おうとしてくる奴が多いので嫌われているのだ。
『つかわないけん、ください。きちんとはらいます。おねがいします。』
「……うーん…………」
「あげちゃえば? そうして一旦ゲーム終わっちゃえばいいじゃん。ね、徴矢」
 まさに悪魔の囁き、とも思ったが、長引かせるよりもその方がいいだろうか。
 数秒考えたが、もう目も疲れてきたので徴矢は剣を渡す事にした。
「でも、安い剣って持ってたかな……」
 一応相手に幾ら金を持っているのかと訊くと、そこそこは持っているが、とても良い性能の剣を買える金額ではなかった。しかし、どうしてそうも剣を欲しがるのか。
 少し気になって、徴矢は聞いて見ることにした。
『なぜ、けんがほしいのですか?』
 いつもより長い沈黙があって、ピートは答えた。
『ぼくとおなじひとが、けんがこわれたと、いっていたので、あげました』
「…………はぁ!?」
 画面を見つめて思わずそんなバカなと声を出すが、相手は文字を打ち出し続ける。
『こまっているひとをたすけるのは、ただしいことです』
 そりゃそうだろうが、このゲームには装備が壊れるなんて仕様は無い。
 耐久度すら設定されていないのだ。そんなゲームで剣が壊れたなんて、そりゃ詐欺としか言い様が無い。詐欺レベルで言えば、子供がお釣りをちょろまかすくらいの簡単すぎる詐欺だった。
 そんなのに、このピートとやらは騙されたと。
「…………なんか、ちょっと僕この人やだな……」
 さもありなん。これが本当なら、このピートという人物はしょうもないほどお人好しな、まるで聖人のような人間だということになるのだから。そんな善人臭い人間を悪魔が好きになれるはずが無い。
 やはりセオも悪魔なのだな、と妙に感心していると、相手のシークレットが解かれる効果音がした。
 このゲームは、通常非公開である自分の能力や持っているアイテムを、特定の人間に見せることが出来る。主にトレードでの詐欺や騙りを防止する手段として重宝されている機能だ。
 いきなりどうしたのかとピートのキャラを見ると、相手はまたジャンプをした。
『ぼくは、うそはつきません。かみにちかって、けっぱくです』
 日本語勉強中の外国人が潔白と言う言葉を使いこなせるとは侮れない。
「うっ…………す、徴矢……早く剣渡して終わろうよ……」
 ピートの言葉に反応したのか、セオは大いに顔を歪めてモニターから一歩遠ざかった。
(…………やっぱこいつ、それなりに教会っぽいのとかそういうの嫌いなんだな)
 神とは共存しているらしいというのに、そのしもべの教会や牧師などは苦手なのだから面白い。
 こんどシスターとかが出る萌え漫画やバトル漫画を見せてやろうかと思いながら、徴矢は相手の装備とアイテム欄を確認した。
 確かに武器の項目には何も装備されておらず、アイテム欄にも道具しか見当たらない。
 オマケに申告していた金額も同じだった。
「はぁー……マジかよ……正直者にもほどがねーか?」
「徴矢ーっもういいから剣渡しちゃおうよー! 僕もうそいつ見るのも嫌だよっ」
 呆れた溜息を吐く徴矢から遠く離れて、セオは物陰に隠れながら喧々囂々と騒ぐ。
 こりゃ重症だ。
「はいはい解りましたよっ……えーと、んじゃ『これあげます』っと」
 言葉をキーボードに打ち込んで、徴矢は自分のアイテム欄の中から剣を一つフィールドへと放り出した。トレードという方法もあるが、初期職業の人間の持つアイテムなんて徴矢にはどれも必要のないものだし、第一こんな清貧キャラの物なんて一つも貰う気が起きない。
 回復アイテムと敵の落とす格下のアイテムぐらいしか持っていない相手からなんて、何も貰えない。
 するとピートはアイテムのほうを向いた後、また一度ジャンプした。
『あの、おかねいくらですか』
『いいよ、いらない。あんた正直者だからプレゼントしてやる』
 可愛いポーズをキャラにさせながら、徴矢は冗談っぽく愛想を振り撒いた。
 しかしピートは余程お堅い人間なのか、あげると言っているにも関わらず困ったように返してくる。
『でも、ぼくがいったのに,それはいけません。おかねはらいます』
『これ高レベル武器だから、高価だよ。あんたに払える額じゃない。素直に貰っときなって』
『え、あの、nan?』
 漢字が多くて何を言っているのか理解できなかったのか、ピートは慌てて言葉を打ち込んでくるが、最後は単語になっていない。しかしもう説明するのも面倒だったので、徴矢はキャラに首を振らせてそれ以上は言うなと相手を押し留めた。
 後ろで何だか悪魔が怖いオーラを出しているし、さっさとおいとまさせて貰おう。
『じゃあ、条件。今度は無闇に人に物をあげないこと。そんで、もう無闇に【物をください】なんて人に言わない事。後はwiki読め。いいな?』
『え、t』
『んじゃ、てきとうにログほんやくしてりかいしてくれ。じゃーな』
『あ』
 言うなり、徴矢はログアウトして落ちた。
 画面上から自分のキャラクターが消えて、一瞬でログイン画面に戻る。ブラウザをそのまま終了して、徴矢はとりあえず一息ついて背中を伸ばした。
「はぁー……で、とりあえず終了?」
 今日はなにやら疲れた、と肩を鳴らしながら部屋の隅に逃げていたセオの方へと椅子を回転させると、相手は不満げな顔をしてじーっと徴矢を睨んでいる。
 まあ言いたい事は解らんでもないが、だがだからといって自分に当たることは無いだろうと徴矢はセオと同じように顔を顰めた。
「あのなあ、俺だってあんな善人丸出しの奴に遭うなんて思わなかったんだから、そう俺に八つ当たりすんなよ。お前、どうしようもねえだろアレは。一期一会って奴みたいなさー」
 椅子の背もたれから体を離して真剣に向き合っている体を示して見るが、セオは小屋に篭ったハムスターのように部屋の隅から動こうとしない。
 なんだ、やはり「体(てい)」では通用しないと言うことなのか。
 自分の投げやりな態度は棚に上げたまま徴矢は顔を一層顰めるが、セオはそれでもただじっと不満げに徴矢を見つめたままで体育座りを決め込んだままだ。
 正直不幸を呼び込む座敷童子みたいで面白いがこれ以上機嫌が悪くなられたら後が怖い。
 仕方ないと小さく溜息を吐いて、徴矢はセオへとゆっくり近付いた。
「なあ、セオ。今度は何が不満なんだよ」
 爪先立ちで膝を抱えるようにして座ると、徴矢は相手の顔を覗きこむ。
 すると、セオは口を尖らせたままでぼつりと呟いた。
「何であんなのに優しくしたの?」
「なんでって……っていうかあんまり優しくしてねーだろアレ。」
 徴矢としては、ちょっと珍しかったから思わず引き摺られてしまっただけであって、別段特にあのキャラに優しくした訳ではなかった。一番安い武器を捨て逃げしたようなものだし、良く考えたら自分は優しい言葉なんて一つもかけていないでは無いか。
 あれで優しいと言うのなら、スーパー野菜人の王子様もツンデレ気味の善人だ。
 しかしセオは何を考え間違ったか、子供のように激しく首を降って否定してくる。
「優しくした! 絶対に優しくしたよ! 徴矢はあんな羊の皮被ったような聖水臭い偽善者なんかに愛想を振り撒いて僕との時間を使っちゃってさあああ!」
 言いながら、激昂する貴婦人の如くキィーと猿のような叫び声を出しながらマントの裾をかむセオ。
 流石昭和の漫画好きと思わず感動してしまいそうだったが、そんな場合では無いと徴矢は思考を切り替えた。どうでもいいが、聖水臭いと言うと別の意味に聞こえるのは何故だろうか。
 いや、そんなことは今は関係ない。
 セオの思い込みの激しさは今に始まったことじゃないが、この怒りようだと絶対にまずいことになる。
 どうにかしてご機嫌を取れないかと考えるが、思いつく前にセオは徴矢の肩を掴んで思い切り引き倒した。どん、と大きな音がして、頭と背中に鈍痛が走る。
「っ、だぁ! なにしやがる!!」
 反射的に睨んだ徴矢に、圧し掛かったセオは不満げな顔を崩さずに口を曲げた。
「それは僕の台詞だよ! 徴矢は僕の恋人なんだよ? 僕の伴侶なんだよ? 僕と一生付き合っていく大事な大事な人なんだよ? それは徴矢も同じでしょ? なのに……なのに他の奴には優しくして僕にはちっとも優しくしてくれなくてさあ……!」
 セオの目が据わっている。
(や……ヤバイ……これはヤバイ……!!)
 こんな時のセオがやることと言えば一つ。
 徴矢が失神するまで抱きまくって虐めまくってベッドに縛り付けるという、拷問だ。
 明日講義があろうがバイトが待っていようが見たいアニメが有ろうが、セオはお構いなしに徴矢を滅茶苦茶にする。一日中部屋から出さないで、ずっと徴矢を支配し続けるのである。
 そんな事になったらヤバイ単位が余計ヤバくなるわバイトを無断欠勤でまた大目玉だわアニメを見逃して大惨事だわでもうこの世の地獄だ。それだけは絶対に起こしてはならない。
「僕には優しくしてくれないのに……他の奴には優しくできるんだ……?」
 翠色の美しい瞳が、深く深く沈んだ怖い色に染まっていく。
 低くなり始めた声にあわせて、セオはゆっくりと手を徴矢の頬に当て、焦らすように首筋まで滑らせる。顔は既に無表情になっていて、怒りさえ見て取れなかった。
(う……くそ…………仕方ねえ……!)
 相手の怒りが爆発寸前だと読み取って、徴矢は一か八かの賭けに出た。
 こればっかりは男としてやりたくなかったが仕方ない。
「セオっ……」
「っ!?」
 切羽詰ったような顔で名前を呼んだ徴矢に、セオが虚を突かれたのか動きを止める。
 刹那、徴矢は首にかじりつくように思い切り相手を抱き締めた。
「あっ……えっ……?! す、すみ、や?」
 普段の徴矢とは全く違う行動に怒気を抜かれたセオは、あわあわとでも効果音が出てきそうなほど慌てて、徴矢の背中を掴むか掴むまいかと手を泳がせる。
 しかし徴矢は意に介さずといった様子でセオを深く抱き締めたまま、言葉を続けた。
「ごめん……お前さっきから寂しいって言ってたもんな……そうだよな、お前はただ、早いとこ俺とこうしたかったんだよな……。悪かった、二次元にかまけてお前に優しくしなかったのは謝るよ」
「すっ……徴矢……!!」
 さぞ重要な事のようにたっぷりと間を開けながらセオの耳元で囁く徴矢に、セオはまるで別人のようにぱっと顔をアホみたいに明るくして涙ぐむ。先程の悪魔の顔が嘘のようだ。
 ここまでは思惑通り、と徴矢は心の中でほくそ笑んだ。
(セオ、お前って奴はホントに悪魔らしくない……。ふ……フハハハハ! 他愛無いわぁ!!)
 いつまでもやられていたら日本男児の名折れと思い、なんとかセオを上手くコントロールできないかと考え数週間。悩みに悩んで決したのが、この方法だった。
 題して、作戦名「ツンデレデレ分90%で鬼の手教師を騙す巨乳美少女をトレースせよ」。
 徴矢自身バカかと思うような作戦だが、解り易い方がいいだろうとあえて初期案のままだ。
 男としてはかなりアレな方法ではあるが、不当に精を搾取されるよりかは何千倍もマシである。少なくとも、失神するまで縛り付けられるよりかはずっといい。
 女々しいなと自分でも思うが、この方法しか簡単なものが無かったのだから仕方なかった。
 これは絶対に普段の俺では無いんだぞ、と自分に言い聞かせながら、徴矢はセオをより一層深く抱き込む。相手は術中にどっぷり嵌まっているのか、疑いもせず、それどころか感動に打ち震えていた。
(う……ちょっと罪悪感が……)
 相手が自分を振り回す悪魔だとはわかっていても、どうもこの悪魔らしくない性格のせいで、本来感じなくていいはずの罪悪感が湧き上がって来てしまう。
 セオは、悪魔のクセに普段は子供のようにバカで純粋だ。
 時々徴矢のほうが悪魔なのでは無いかと思ってしまうほど、徴矢と一緒にいる時のセオは悪の一文字さえ思い浮かばないような人間……いや、物体? だった。
 そんな天使も真っ青の相手を騙すのは、流石の徴矢でも忍びないと思ってしまう。
 例え普段どのようなことをされていようとも、どうしてか憎む事が出来なかった。
「徴矢っ、ああ、徴矢ぁっ! だから僕は君が大好きなんだっ、愛しいよ徴矢ーっ!」
 トレンディードラマも顔負けの臭すぎる台詞を何度も吐きながら、徴矢を抱き締め返す悪魔。
 この様子じゃ、絶対徴矢が自分を騙しているなんて思ってない。
(…………あー……俺、やっぱこいつ好きなんだろうなあ……)
「徴矢?」
 我ながら呆れたものだと溜息が出るが、嬉しそうに首を傾げる悪魔には聞かせられない。
 大人がそんな風に首を傾げても気持ち悪いのに、と思いながらも、実際の所そんな悪魔が可愛いなどと思っている自分が恐ろしい。三次元の、もっと言うとこんなむさ苦しい男になんて、今まで生きてきて一度たりともそう言うことなど思わなかったのに。
 けれど、嫌だとも思わない。
「……セオ」
「ん?」
 口を弧に歪めてキラキラとしたイケメンな目でこちらを見下げてくるセオに、徴矢は微苦笑して肩を竦めた。
「一回だけなら、セックスしてもいい」
「えっ!! ほ、本当かい?!」
 途端に驚喜を顔満面に染めこむ相手に、徴矢は苦笑を深めて頷いた。
「一回だけだからな。……今日くらいは、お前の言う通りにしてやるよ」
「うわあ……! うわあ……! 徴矢…………徴矢、大好きだよ!! 愛してる!!」
 言いながら再び徴矢を強く抱き締めるセオ。
 鬼の攪乱かと自分でも思ってしまうくらいの台詞を噛締めながら、徴矢は相手の背中に回した手に力を籠めた。
 何だかんだで自分はセオに「ラブラブ」とやらをやっているではないか。
 しかも、認めたくないが、物凄く自然に。
(改めて『好きなんだあ〜』……なんて思うこと事態、そうとしか言い様が無い……よな)
 もしかしたら、徴矢も本当は今までの枯れた生活ではなくて、こうしてラブラブとやらをしたかったのかもしれない。……傍目から見たら、凄く気持ちが悪い本心だが。
 しかし今はそんな事に構う気にはなれず、徴矢はセオの口付けを甘受したのだった。












    

   






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感想が貰えると九十九島が嬉しさのあまり炸裂します。

レスはこちら








後書き

  遅くなってしまいました;
  個人的にはネトゲの説明とか楽しかったんですが
  どーも趣味に走るといかんねこれ
  とりあえず今回の目標は「ラブラブさせること」です。









2010/10/20...       
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