※この話には、死を軽く見た発言、非人道的な行動などが含まれます。
 この短編は完全なるフィクションであり、物語として第三者からの視点で「非現実な現実」という物を書くことに挑戦したかった故に執筆した物です。製作者は、短編内の行動・行為などを容認、推奨、またはそれを面白い事だと思っているという考えはありません。
 不謹慎な話ですので、そのことを納得した上でお読み下さい。


















 俺は御手洗明仁(みたらい あきひと)。今年二十歳になったばかりのナイスガイだ。
 大学の三年生だが、これといって何も無い平凡な毎日を過ごしている。
 美人なネェチャンが傍に現れる事も無いし、今の所怪しいサークルにも勧誘された事は無い。
 全く普通の生活ではあるが、今日はその普通の生活の一部を、皆さんに語ろうと思う。














 ぴぴぴぴぴぴ・ぴぴぴぴぴぴぴ…


 デジタル音を撒き散らす目覚まし時計が、俺に時間だと告げた。
 軽快な音に揺り起こされて、朝から目覚めが悪いことこの上ないが、どうにもこの目覚ましを廃棄する事は出来なかった。残念ながら俺は自力で起きれるような胆力は持ち合わせていない。結局の所、俺はこの五月蝿い時計に毎日縋っているのである。
 まったく情けないばかりだが、そうやってへこんでいるわけにも行かないので、のそのそと起き上がって時計を止める。そうして、俺は気乱れたパジャマを脱いでそこらへんへ放っておいた。汗臭くなるまで、俺は洗濯しない主義だ。
 汚くなんか無いぞ。臭いはしないし。
 そうして、昨日適当に畳んで置いた服を着て、テレビをつける。
 大学へ行くにはまだ時間があるから、テレビでも見て今日の出来事でも知るか。
 そう思いつつ、俺は卓袱台に置かれているパンの袋を開けると、それをもさもさと食べ始めた。
 うーん、しかし色気が無い。
 あ。予め言っておくが、彼女は居たんだぞ。……一週間前に。
 ……でも、別れたんだよな……。アッチから振ってきて……。
 ま、まあそんな事言っていても仕方ない。とりあえず、朝食を取るのが先だ。
 テレビは丁度ニュースの時間らしく、年輩の男性キャスターが神妙な面持ちでこちらにお辞儀をした所だった。
『ニュースです。今朝七時頃世田谷区で、実験に使っていたチンパンジーが特殊なコレラウイルスを撒き散らし死亡しました。衛生局はチンパンジーの死骸をその場で焼却しましたが、まだ感染の危険性があります。世田谷区の住民の皆さんは、充分注意してください。次のニュースです…』
 何事も無かったようにそのニュースを読み流し、芸能人の醜聞に話題を移すキャスター。
 それをパンを食いながら見ていた俺は、眉を顰めた。
「げぇ。世田谷ってここじゃねーか。またかよ」 
 しかもパン食ってる最中に胃の痛くなるような話は止めて欲しい。思わずパンを喉に詰まらせたらどうしてくれる。
 ――しかしこの頃よく実験動物が脱走するな。
 この前はゴリラだったし、その前はニホンザル。その前の前は……とにかく覚えていないが、かなり脱走している。でも、それもいつもの事か。
 俺はそう納得すると、テレビの右上の時計に気付いて腰を上げた。
「おっと。もう時間だ。」
 時計が出かける時間を指している。
 もうでなきゃ遅刻しちまうな…。ただでさえ単位危ないってのに……。
 リュックをからうと、履き古してボロボロになった靴に足をねじ込んで、トントンと整えた。
 そうして、忘れてはいけない。
 玄関においておいた防毒マスクを顔に装備し、俺は家を出たのだった。




 俺の家は比較的駅に近く、都心の一等地に有る。
 家賃二万円・六畳半の低価格で、この利便のよさ。いい所を見つけたものだ。けれど、毎回毎回マスクを被って外に出るのは面倒臭い。田舎であればまだ良かったのだろうか。
 人の行き交うショッピング街を足早に横切り、交差点の赤信号で止まる。いつものパターンだ。幾ら早く出てもこの信号からは抜け出せない。大して長い間隔でも無いくせに、これはもう、俺へのいじめとしか思えないな。
 そうしてポケットに手を入れ、ぶーたれて待っていると、隣から奇声が聞こえた。
「ぐぇあぁぁあぉぉあぁあぇぁあ!!?」
 どうしたのかとちらりと横を見れば、サラリーマンが血を吐きながらのた打ち回っている。
 おお、噴水みたいに口から血が。
「あーきひとっ!」
「おうっ?!」
 後ろからいきなり抱きつかれて、俺は前のめりになった。
 おもい! 重いって!!
 慌てて体勢を整えて後ろを振り向くと、防毒マスクが目に入った。
「……だれ」
「うわー、かなし〜!俺は一目で明仁って気付いたのに〜」
 そういって、ワザとらしく体をくねらせる男。…このふざけた仕草には見覚えがあった。
「……篤志(あつし)か」
「そーでぇす!」
「しかし良く俺が解ったな……」
「だって〜。俺の親友だもん。」
 チェキ! とかいいながら、防毒マスクでピースサインウィンク。ウザイことこの上ない。しかし、奴は俺の友達なので、殴らないことにした。まあ、正直防毒マスクに素手をヒットさせられるほど俺の拳が強くは無いからなのだが。
 そんな感じでくねくねしながら抱きついてくる篤志を押しやりながら、俺はもう一度サラリーマンを見た。
 サラリーマンは、相変わらずのた打ち回りながら血を吐き出し、くぐもった悲鳴をあげている。誰かに助けを求めているようであったが、アレだけ血が出ていれば、もう助からないだろう。周りの奴らもそれが解ってるのか、それとも関わりたくないだけなのか、サラリーマンを無視していた。
「明仁〜。まだアイツ見てんの?」
「ん……ああ。」
「全く。身から出た錆だよな〜。防毒マスク忘れてくるなんて。」
 篤志は俺の首に手を回して、そう囁く。
 俺もそうは思ったが、多分このサラリーマンはニュースを見ていなかったのだろう。だから防毒マスクを忘れたのだ。だってほら。
 そのサラリーマン以外
 みんな、俺と同じ、マスクを被っている。
「あ。明仁、信号変わったよ?」
 事も無げにいう篤志につられ信号機を見ると、確かに信号は青に変わっていた。
 『早く歩け』と急かす様なマークを浮かび上がらせて、明るく点灯している。
 次々に歩き始めた人々に習って、俺も篤志を引き摺りながら横断歩道を渡った。
 途中、信号無視の車で何人か轢かれる。
 ……危ない。もう少しで俺もああなる所だった。
 ここは大阪並みに信号無視が多いから、気をつけなければ。
 そうこうしている内に歩道を渡りきり、俺はふと今まで歩いてきた道を見た。



 横断歩道にはぐちゃぐちゃに轢かれた三人ぐらいの死体と肉片。
 その向こう側には、情報を聞き逃したために、ウィルスの餌食となって死に絶えた、血塗れのサラリーマンが一人。
 防毒マスクを被った大勢の人が、それをうざったそうに避けながら信号が変わるのを待っていた。



「明仁〜? 行こうぜ」
 俺の二の腕に腕を絡みつかせて、篤志が俺を引っ張った。
「……ご愁傷様」
 俺はそう普通に呟くと、篤志のされるがままに駅へ連れ去られた。
 いつもの事だが、目の前で死ねばこういうことも言わねばならないだろう。
 俺を捕らえてにやついている篤志の顔を押し退けながら、俺は溜息を吐いた。
 ……因みに言っておくが、篤志はホモでは無いらしい。
 前に聞いた話では、あぶない薬に手を出して、更生したらこういう性格に生まれ変わってしまったといっていた。何が有ったかは訊かない事にしているが、ホモでないのだったら、この過度のスキンシップは止めて欲しい。

 そうこうしている内に、俺達はあれよあれよと地下鉄電車に乗っていた。
 駅はホームレスの人でごった返して臭いがきつくて堪らなかったが、駅員がその対応に追われていたため、俺達はタダで改札を通ることが出来た。毎日ホームレスと酔っ払いの対応に追われている駅員さんは偉い。
 何しろ、いつも煩くがなりたてている人達を、一太刀で黙らせているのだから。
 お陰で床がぬめって転び易くて仕方ないが、まあ、苦労を思えば我慢出来ない訳ではないから、苦情は言わない事にしておこう。言ったら文句を言っている人と間違われるかもしれないし。
 そんな事を思いつつ、俺達は出発ぎりぎりの電車に無理矢理に乗り込んだ。
「ねえ明仁」
「なに?」
 満員の地下鉄の電車。扉側に詰められている俺達は、ぴったりとくっついている。
「俺欲情してもいい?」
「ふざけんな」
「えー。じょうだんなのにぃ」
 冗談には聞こえない。冗談には。
 そう思っていると。
「や…やめてください…」
 か細い声が耳に入った。
 そちらを振り向くと、なんと。女の子が痴漢されているでは無いか。
 ……助けに入った方がいいだろうか?
「お。痴漢だ。いいねー。ねぇ明仁、おれた」
「やらない」
「…………ちぇ」
 だから、ホモじゃないならそういう事を言うなってのに。
 そちらに気を取られていると、いきなり水が噴出すような音が聞こえた。
「ぎゃぁああぁあああぁあ!!!」
 空間を裂くような叫び声が聞こえて、思わずそちらを振り向くと、先ほどの女の子が誰かの手を持っていた。ただし、手とはいっても、その先の体や二の腕とかは一切無い。手首の元の持ち主は、電車の中心で叫んでいた。
 何かパクリみたいだな。
「……だから言ったのに。止めてくださいって。」
 片手に手。片手にサバイバルナイフを持って、少女は虚ろな目で呟いた。
 あー……骨とか見えちゃってるよ。でもよくあの女の子、骨まで断ち切れたもんだ。
 普通は犯罪なんだけど、痴漢だったし、通報する必要も無いか。
 他の人たちも犯人を見ていたけど、またそっぽをむいてしまったし。まあ、みんなマスクしているから顔は解らないけど、呆れているに違いない。
「バカだねェ。痴漢するときは相手が武器持ってないか確かめてからしなきゃ」
 さらりと言う篤志に、俺は半眼で問うた。
「……やったことあるのか」
 すると。
「え? ははは。やだなぁ、それは檻の中に入るマ・エ! 今は明仁一筋だようぅ」
「だから……もういいや」
 これからは注意するんじゃなくて、掘られないように気をつけよう。
 嘆息して上を見ると、醜聞ばかりを載せた中吊り広告。
 『スター・不正発覚! 十年の贈収賄』とか、『十分でやせる! 簡単ダイエット薬!』とか女が好みそうなタイトルが書かれている。興味ないけど。
「明仁。もうすぐ着くよ」
 そう篤志が言うと、間も無くアナウンスが聞こえた。
『えー……次は……「○×☆△◇」』
「それ一個前の駅の名前じゃん」
 篤志が突っ込みを入れたと同時、運転手は何事も無かったかのように、言った。
『えー……すみません。諸事情のため、駅名を間違えてしまいました。次は「◇○×☆」です……』
 それを聞いて、周りがざわざわと騒ぐ。
「……寝てたんだな」
「だねぇ。またかよって感じ。」
 これで、この地下鉄の運転手の居眠りは十度目だ。一方通行だからいいものを、もしもブレーキを入れ忘れて壁に激突したらどうしてくれる。俺は大学に行かねばならんのに、単位を落としてしまうじゃないか。
「もう一回やったら警察に言おう。」
「でも繋がるかな? 結構この頃お休みが多いよね」
「そうだなぁ…。火曜辺りだったら一人くらいは出勤してるかも。」
 この頃交番も巡回が多いし、ヤッパリ言っても無駄か?
 そんな事を考えているうちに、電車は急ブレーキでホームへ停止した。
 思わずよろめきそうになったが、手摺のお陰で事なきを得る。篤志も俺にしがみ付いて、どうやら無事らしい。他の人はタイミングが掴めなかったのか、電車の端にいた人が数人、人々の重さで圧死していた。ほら、また不祥事だよ。今日ニュースで報道されっかな。
 慌てて開いたかのような扉から降りて、薄暗いプラットホームを見ると、そこも血塗れ。
 もう、滑り易いから止めろってのに。急いでて階段で転んだら危ないだろ。
 ホームにはマスクをつけずに、あのサラリーマンのように転がって死んでいる人や、昨日何かあったのだろう。ニュースにもならない些細な事で殺された人々の死体が転がっていた。
 あー……なんか腐ってるのもあるよ。
「警察は来ないのか……」
「面倒臭がってんじゃない? だって報道もされないなら、片付けても一緒だし。後で駅員さんが花壇に埋めてくれるよ」
「花咲くかな?」
「あ。何か植える花は、今年はウチの大学から貰った種だって言ってたよ」
「植物遺伝学科の奴からか?」
「みたい。何か天国に居る心地になれる匂いを出す花だって」
 ……それって……あれじゃ。
「……お前吸うなよ」
「やだなぁ。明仁に変な事しちゃうかもしれないから吸わないって。」
 ああ。これで死体がまた増えるのだろうか。
 どうでもいいけど、歩きにくいからもう死体を増やすのは止めて欲しい。血が滑りやすくって困るんですってば。これからゴム靴履いて来なきゃあかんのだろうか。
 赤い色に染まった階段を四苦八苦して上りながら、俺はそっとぼやいた。
「あー……誰でもいいからこの毎日を変えてくれ。メンドクサイ」
「明仁! 俺ならそんな日常を薔薇色」
「いらんて」
「ぶー。明仁のいけずぅ」
 ああ、なんていってる間に、人が面白いほど滑って転がって落ちてくし。
 さっきの禿げたオッサンなんか、ツルーンて言ったし。なんかのギャグかよ。
 つーか、また下で死体増えてるし。もー……やだなぁ。帰るときには減ってればいいけど。もう駅員さんもやんなってんだろうなぁ……。この階段三日前から掃除されて無いし。
 やっとの事で階段を上り切って、人の居ない改札を抜けて外に出た。
 おー。暖かい日差しだなぁ。
 駅前は喧騒が酷く、巨大テレビなんかがでっかい声でなんか言ってるが、まあいい。お日様万歳だ。暗く臭い地下よりかはよっぽどマシというものだ。
「明仁、警報解除されてるみたいだね。」
 そういわれて人々の顔を見ると、みんな普通にマスクをつけずに歩いていた。
 テレビにも、警報は解除されたというテロップが流れている。
「ふーん……。あ、でも俺らはコレラ持ってきてるかも知れないから、先に大学へ行って菌落としてもらわなきゃな」
「あ、そっか。なら早く行かないとね」
 しかし困ったな。
 そんなに菌はついていないとは思うが、多分誰か近付いたら死んでしまうかも。
 でも、まあ、いいか。
 どうせ警察はロクに話も聞きゃしないし。
 俺はそう思って頷くと、べったりとくっつく篤志を連れて、雑踏の中へ入り込んだのだった。







「おお。御手洗君に鶯谷君。」
 大学の入り口で出会ったのは、アインシュタインのような爆発した白髪頭と、口をヒゲでモサモサと覆っている初老の男性だった。
 この人は、俺らの講師で、名誉教授の宛乃啓三(あてない けいぞう)教授という。色々と発明した有名な教授だ。本当は講義室に居るはずだけど、今は門の前に立って、何かを持っている。
 まあ会いに行こうと思っていたので、丁度良かったかも。
 死なれると困るので、少し距離を置きながら俺は教授に言った。
「えーとぉー、教授ー。俺ら世田谷からなんですけど、コレラ拾ってきたかもしれないんで消毒お願いしますー」
「します〜!」
 そう叫ぶと、宛乃教授は「解った」と言うように頷いて、防毒マスクをしてから俺らに近寄ってきた。
「君たちもか。しかし世田谷は死体が多くて、通り抜けるのが大変だっただろう?」
 消毒スプレーを全身にぶっ掛けられながら、俺は頭を振った。
「いいえ。普段どおりでしたよ。でもいい加減駅の清掃はして欲しいですね。滑り易くって仕方ない」
 俺の言葉に、宛乃教授は翁のように笑うと、マスクを外した。どうやら消毒は終ったらしい。
 篤志と俺はマスクを脱ぐと、今日始めてお互いの顔を見やった。
 あー。篤志ったら。相変わらず目の下隈出来てんなー。他はカッコいいのに。
「きゃーっ! 明仁の顔だ〜っ! 平凡な顔過ぎて逆に萌える〜!! っていうか無表情萌え?」
 抱きつくなっつーに。
 そんな俺達の姿を見ながら、宛乃教授は翁のように豪快に笑った。この笑い方が同じ学部の奴にはキモイと思われるらしいのだが、俺にとっては昔ながらの笑い方で結構好きなものだ。
 ふっと笑みを漏らして宛内教授を見ると、教授は笑んだままの目で俺に言う。
「本当に君たちは仲がいいなあ。羨ましい」
「えー、本当ですか!? 嬉しい〜!」
「こっちは辟易してますけどね」
 思わず喜ぶ篤志に冷たい視線を故意に送りながら、俺は肩を落とす。
 けれども宛内教授には、それも仲の良い様子としか映らなかったようだ。うんうんと頷いて、満足したようにヒゲを扱いていた。
「いやあ、それにしても君たちが無事でよかったよ。これ以上バイオ実験の研究生が減ったら困るところだったからね。」
「というと」
 また何かあったのだろうか。
 その疑問を口にするより先に、教授は続けた。
「昨日、研究生がサルへの投菌実験に失敗してねぇ。二人が死んでしまったんだよ。……全く、彼らにも鶯谷君の器用さと、御手洗君の冷静さがあればよかったものを……とんだ惨事だったよ」
「部屋の消毒はきちんとしたんですか?」
 俺がそう訊くと、宛内教授は自信満々にうなづいた。
「うむ。勿論だ。サルも処分したし、データも取れた。だからもう、他のもので実験などしなくて良い」
 それを聞いて、俺らは心の底から安堵した。
 もし部屋が消毒されてなかったら、俺らが二の舞になっていたかもしれない。宛内教授は研究熱心だから、人を実験台にすることもいとわないからな。用心するに越した事はない。
 そう思って、俺はふと今日のニュースを思い出した。
「あれ……教授」
「なんだね?」
「もしかして……データって、今日のニュースの奴ですか?」
 何の気もなしにそういってみると、教授は意地の悪い笑みでニヤリと笑った。
「やーん。教授悪役っぽいー」
 篤志が俺の肩に腕を回してそういうが、篤志の顔だって、負けてはいないくらいにニヒルに笑みを浮かべている。悪役勝負なら良いところだろうな。
「研究に犠牲は付き物だからな」
 ああ、やっぱり。
 あれは全て教授が仕組んだことだったのか。
 まただ。よくやるよ。
 俺はそう思いつつ、口を少し弧に歪めると、教授に訊いた。
「まあ、処分したのが偶然生き返っちゃいましたって言えば許されますけど……何回目でしたっけ」
「ふむ…………確か……六回目だったかな?」
 あまり覚えていない、と眉を片方だけ上げる教授に、俺は笑った。
「ま、いいですけど、今度は別の場所に離して下さいよ? もう防毒マスク被るのはごめんなんで」
「考慮しよう」
 俺はそれを聞いて安心すると、篤志と顔を見合わせて大学へと足を踏み入れた。
 さあ、今日も普通の生活の始まりだ。
「ところで教授ー」
「なんだね」
「今日の授業はなんですか?」
「今日は、内臓を短時間で腐らせるウィルスの研究だ」
「被検体は?」
「そうだな……街角にでも出てみるか」
 はあ、また言ったそばから防毒マスクかあ。
 俺は二人の話を訊きながら、代わり映えのしない日常に、大きな溜息をついたのだった。










 これが、俺の日常です。
 普通だっただろう? つまらないもんだよ。
 もうちょっと、異世界に行ったー。だとか、空とんだーだとか、そんな話がほしいよな。
 でも、突飛な事なんてそうそう起きないんだよな。
 変わったことと言えば、篤志くらいだし。

 ああそうそう。日常と言えば、忘れてはならないことがあった。

 明日もマスク被っていかなきゃいけない。



 
 どーせ、宛内教授はまた俺ン家の近くにウィルスをばら撒くんだしな。



 はー。
 嘘でも良いから、普通じゃない生活が送りたい。







 終









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 かなり前に書いたものです。
 意味不明。
 
 精進します。




2007.12.06...

 
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